SSブログ

僻地医療現場で医療訴訟 [医療事故]

毎日新聞 新島村:預金差し押さえられる 医療過誤賠償金支払い巡り

 村立診療所の医療過誤訴訟で東京高裁に損害賠償を命じられた東京都新島村が、112万円余りの賠償金の支払いを巡り、約2700万円の定期預金を差し押さえられていることが分かった。原告は東京・渋谷の駅前などに置かれている「モヤイ像」の製作者として知られる同村本村の大後(だいご)友市氏(76)。村側は「原告が受け取りを拒否している」と説明するが、その際に通常取られる法務局への供託手続きは取られていない。

 1月の東京高裁判決によると、大後氏は01年12月、土産品として販売するミニモヤイ像を自宅工房で製作中、誤って左手の中指を石材用研磨機に接触させて負傷。村立本村診療所で診察を受けたが、医師が骨折の事実を見落とした。判決は、適切な治療が行われなかったため、その後の製作に支障をきたしたとして、1審・東京地裁判決(05年12月)の50万円を上回る112万円余りの支払いを村に命じた。

 高裁は仮執行を宣言し、村はこの時点で賠償金を全額支払うか、上告して担保金を積む必要があったが、支払いもせず上告もしなかった。このため、原告側は東京地裁に村の財産の差し押さえを申し立て、同地裁は今年3月、地元信用組合の村の定期預金2700万円余りを差し押さえた。

 原告側はさらに、高裁判決を不服として上告したが、最高裁は6月に上告を棄却、高裁判決が確定した。その後、村側は賠償金を支払う意向を伝えたが、今度は原告が「村は不誠実。謝罪すべきだ」と態度を硬化させ、受け取りを拒否した。

 村側には、東京法務局に供託して債権・債務関係を解消する方法があるが、22日現在、原告側に手続き完了を知らせる通知は届いていない。差し押さえの対象が定期預金のため、直ちに村民への影響はないが、年0・05%換算の損害金が毎日上乗せされている。

 人口3000人余りの同村では、村民が村を相手に提訴するケースはまれだ。原告側代理人の丸山恵一郎弁護士は「村がすぐに賠償金を支払わなかったのは、村相手の訴訟は許さないという見せしめに見える。民間企業なら、差し押さえは即倒産につながる」と村を批判している。一方、出川長芳・同村長は「相手の都合で支払えないと聞いている」と話している。【清水忠彦】

大後友市氏は、初めて新島でモヤイ像を彫り始めた人です。イタリアのリパリ島と新島にしかないコーガ石を使って、イースター島のモアイ像に習って「モヤイ像」を作ることを発案し、自ら作品を作り始めました。新島のあちこちに立っているモヤイ像の元祖とも言うべき人です。

モヤイとは、船が舫う様子、またはその綱の意味です。新島村民がお互いに舫い、村民のコミュニティ
を大切にしようという意図の命名でもあったと聞きます。そうでなくても、島は家の玄関のカギをかけることもなく、車も同様。犯罪もなく、島の中で争いというものはあまりないようです。

しかし反面排他的な面も強く、外から来た人間が島にとけ込むには相当のエネルギーと時間を要するとも言われます。島の男性のもとに「内地」から来たお嫁さんが、島の社会になじむのは大変なようです。

さてそこで、診療所です。新島村の本村診療所は1~2年ごとに交代する自治医大卒業生と、都立病院から数カ月単位で派遣される医師の2人体制です。同じ村でも式根島は島内に別に診療所があります。
そして、この体制は東京都に保証され、それまで医師の確保が村長の最大の職務であった時代はだいぶ前に終わりました。他県の離島や僻地から見ればかなり恵まれた環境と言えます。

しかしその反面、「今度来た医者は‥」などと公然と批判する村民も現れます。1~2年で内地に帰ってしまう医師は所詮よそ者です。島のコミュニティの枠外です。こうしたところに、今回のような訴訟沙汰の要因があったのかも知れません。もちろん診療所の事務長はじめスタッフはみな島の人間ですからたいていの場合はこうした紛争化しそうな事例も穏便に解決して来たのかも知れません。

僻地でなくても、産科を筆頭に医療崩壊が進んでいます。新島は上記のように、東京都から医師を確保してもらえる体制になっていますが、もしこんなことが頻発して来たら、僻地の診療所から医師がいなくなります。紛争が発生しても、そう言う時こそ村のコミュニティの底力で裁判外解決を実現して欲しいと願っています。


nice!(1)  コメント(8)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 1

コメント 8

majubijou

おはようございます!

渋谷のモヤイ像はみたことないですよね・・・
よく芸能人も言ってますよね?
どこにあるのかも。。。笑
すごいですね、
モヤイ像もあるし、
自由の女神もあるし。。。。笑

やはり島、
村には診療所などの問題はありますね
緊急の場合、しかも海が荒れていたら、
船が出せないとなると、
ヘリコプターや。。。。いろいろ問題もありますしね。
医師もそれらを視野に入れて
診療に当たるとなると大変な苦労を
背負うものでしょう・・
by majubijou (2007-12-09 09:59) 

筍ENT

渋谷のモヤイ像も新島の人が作ったもののようです。渋谷以外にも都内にいくつかモヤイ像が置かれていると聞いたことがありますが、詳しいことは忘れてしまいました。

伊豆諸島は東京都ということで恵まれてはいるのですが、天候には勝てません。船・飛行機はもとより、ヘリも運航不可能な場合の急患搬送はできません。天候の回復を待って自衛隊のヘリを待つことになります。

天候は問題ないが、この患者さんを診療所で経過観察して良いのか、都立病院等に搬送してもらうべきなのか、かなり迷うこともあります。

コメントありがとうございました。
by 筍ENT (2007-12-09 10:35) 

峰村健司

はじめまして。
この裁判の判決文(一審、控訴審)を1ヶ月前くらいに東京地裁で読みました。一審の判決文は書き写してきましたが、判決文自体はさほど面白い感じがせず、そのままお蔵入りさせていました。
判決文や裁判資料(証拠群)を見る限りは、医者が島外者だからといったことは特に関係なかったように思います。そもそも、診断ミスがあったことは被告側も認めていて争いになっていませんでした。左中指骨折を見逃す診断ミスはあったけど、患者側も特に不便なく(と思われる)過ごしていたところ別の指を怪我してしまい、こうなったのは元の左中指骨折を見逃されたからだと後から文句をつけたということのようです。
注目されている方がいらっしゃると知り、時間ができたら判決文を書き起こしたいと思いました。後日完成したらまたご報告します。
by 峰村健司 (2007-12-11 01:58) 

筍ENT

ご訪問ありがとうございます。

詳しい情報をありがとうございます。訴訟の元になったのが、医師が島のコミュニティに入り込めていないということとはあまり関係ないということでしょうか。

確かに訴えた相手は医師ではなく、国保診療所を運営する村ということですね。
村長ら村の執行部と大後さんとの間に何か人間関係錠トラブル・確執が存在したのでしょうか。

コメントありがとうございます。
by 筍ENT (2007-12-11 21:11) 

峰村健司

筍ENT様

一審の判決文を起こしました。私の印象としては、単に原告が変わった人だったという印象です。裁判記録で証拠類を見ると、余計にそう思われると思います。
by 峰村健司 (2007-12-16 16:26) 

筍ENT

判決文と記事を大変興味深く読ませて頂きました。ありがとうございます。

>争点は、最初の骨折と2回目の切断事故との因果関係になってい
>る。一審判決では、その因果関係は認めなかったが、慰謝料のみ
>認めた。 原告は、最初の骨折見逃しに関する慰謝料を求めていな
>かったが、裁判所の判断でそれが認められた形となっている(こん
>なのありか?)

>最後まで判決文を読み進んでいくと、「藤山雅行」の味のある署名
>が目に入った。

これは医療裁判の中で定評のあるトンデモ判事藤山雅行その人ですね。医療崩壊促進に一役買っている人です。

峰村さんの記事でようやく事件の概要がわかりました。ありがとうございます。
コメントありがとうございました。
by 筍ENT (2007-12-16 17:42) 

田中山

だいぶ前の記事に申し訳ありません。新島に勤務した経験のある医師として申し上げておきますと、新島(本村、若郷)は上記二名に加え、順天堂大学の総合診療科より一名が派遣され、総勢三名体制です。
ただし島嶼としては珍しく人工透析も行っており、人員は不十分です。
正直申し上げて順天堂の医師はそこまで新島派遣に乗り気でないようです。都立病院からの派遣医は3~4年目の医師です。
この訴訟はもともと相当でたらめだということで、少なくとも周りにいる都立病院勤務医は全く気にしておりませんが、他の僻地においての医療の妨げにならないか不安です。
by 田中山 (2009-03-24 15:59) 

筍ENT

ご訪問ありがとうございます。

現場をご存じの先生から有用な情報をありがとうございます。私が知っていたのは自治医大卒業生2名体制時代なので、隔世の感があります。透析についても神津島が始めたのは知っていましたが、新島も開始していたのですね。

順大の先生方は、自治医大のように学費免除される訳でもないし、島派遣が嬉しいとは思えないですよね。歯科の先生方のように日大から来ていると、無給の日大勤務医・歯科医よりは、島でちゃんと給料が出た方が嬉しいということで、喜んで赴任されて来たようですが‥。

その後島嶼ではこのような訴訟も聞かず、大後さんの一件のみでもうないことを願うばかりですね。

コメントありがとうございます。
by 筍ENT (2009-03-24 20:20) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。