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僻地医療の実際 [医療制度/行政]

河北新報 無医村のため力尽くす 秋田・上小阿仁に松沢医師着任

 「無医村」状態だった秋田県上小阿仁村に今月、栃木県の開業医だった松沢俊郎さん(67)が村国保診療所の常勤医として着任した。赴任のきっかけは、新たな勤務地を探していて偶然目にした村の医師募集のホームページ(HP)だったという。松沢さんは「村に縁を感じた。医療を切実に求める地域のため、職責を果たしたい」と意気込んでいる。

 診療所は、1人しかいなかった常勤医が5月末に退職した。人口が約3000と県内で最も少ない小さな村に開業医はなく、村の要請で周辺市町の医師3人が非常勤で診察に当たってきた。

 内科医の松沢さんは、首都圏の病院に勤務した後、「医師を志した原点である『へき地医療』を担いたい」と、栃木県の農村部で開業。20年間、地域医療を支え続けた。地域の医療事情が改善し、「もっと困っている場所で診療したい」と考えたという。

 医師が切実に求められている地域を探すため、7月にインターネットで「へき地」「無医村」をキーワードに検索し、最初に目に留まったのが上小阿仁村だった。村に連絡を入れると、早速、強い誘いを受け、「そんなに喜んでもらえるのなら」と今月1日からの勤務を決めた。

 新潟県出身の松沢さんは、東大文学部に進学後、シュバイツァーの著作に感銘を受け、「恵まれない人の役に立つ仕事がしたい」と、1年で東大医学部に入り直した。文学への情熱も冷めず、医師になった後も小説2作を出版した異色の経歴を持つ。

 松沢さんは、村の印象について「素直で実直な患者さんが多く、診察しやすい」と語る。患者の方言が理解できず、看護師に「通訳」を求めることも多いが、「この村が、医師として最後の勤務地。人への愛情、興味が尽きない限り、診療を続けたい」と話している。

以下は実話です。
ある県の村の国保診療所にA先生という医師が一人で勤務していました。もともと産婦人科でしたが、診療所には色々な患者さんも来ます。血圧の管理から、外傷の縫合まで何でもやっていました。

ある年、自治医大の学生の夏季実習でその県出身学生10人ほどが、その診療所を訪れました。毎年その県の学生が県内の医療僻地の診療所を訪れたり、住民健診に参加するというのがその県の僻地医療振興担当課の年中行事となっていました。

診療所でA先生の診療を見学して、最後の患者が帰った後、A先生は自治医大学生を前に話しました。
「私はこの村に骨を埋めるつもりで赴任して来ました」

学生達は雷に打たれたように、その言葉を聞いていました。自分たちは卒業後一定の年限僻地医療に携わることが決まっているのですが、具体的にどんな過疎の村でどんな医療を行うのかはよくわからない状態でした。
義務年限が終わったら僻地から引き上げ、地元医学部附属病院で働いたり、市中病院への就職をするのだろうと、ぼんやり考えていたのです。

そんな義務を背負っている訳でもないのに、このA先生は自らの意志でこの村に赴任し、一生をその村の医療に捧げると言います。学生たちは大きな衝撃を受けました。

それから数年後、この村の診療所は2人医師体制となり、自治医大卒業生が交代で赴任することになりました。A先生と2列で外来を行い、夜間救急対応も一日おきに行います。

その体制が始まってさらに数年、A先生は定年退職することになりました。その後も村内にある特別養護老人ホームの嘱託医として活動を続けることになりましたが、その村を離れて故郷に帰る、ということは考えていないようでした。

A先生退職後は、自治医大卒業生と、県立病院からの短期サイクル派遣で2人医師体制を維持することになりました。

A先生退職時に、村は形ばかりの感謝状を出しました。しかし、村役場の担当者も村民ももはやA先生に敬意を持っている様子はありませんでした。今度来た県立病院からの派遣の先生はこんな新しい検査をやってくれるそうだ、進んだ新しい治療をやってくれるようだ。それに引き換えA先生は大して検査もしないし、古い薬ばかり出す。そろそろA先生にはご引退頂いて、早く若手の先生2人体制の診療にしてもらえないものか。

そしてそんな中A先生は定年を迎えたのでした。A先生は本当に村内に家を建て、そこに永住する準備が出来ていました‥。

医師が崇高な決意を持って地域医療に励んでも、なかなか実際には報われないようです。

ニュース記事の上小阿仁村国保診療所の松沢先生を、村民が本当に大切に思ってくれることを祈ります。


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コメント 8

佐藤 昌亮

偶然にあなたのURLを見つけました。
早速地図で上小阿仁村を探しました、随分僻地へ行ったんですね。
私はとうに毎日が日曜日で図書館がよいの日々です。
医師不足が深刻な今、僻地医療に後半生をかける覚悟ご立派の一語です、ご活躍を記念しております。
地図の依ると温泉も無い、鉄道もない、観光客も来ないような僻地なんだね。
by 佐藤 昌亮 (2009-02-21 13:49) 

筍ENT

ご訪問ありがとうございます。

このニュース記事にあった松沢俊郎先生のお知り合いの先生でしょうか。
この記事をブログ主の私が取り上げて紹介したあと、残念な記事を見つけました。

http://takenoko-ent.blog.so-net.ne.jp/2009-02-18

結局村の診療所に定着しなかったようです。松沢先生と村の間に何があったかわかりませんが、私が一番懸念しているのは、高邁な精神を持って赴任されたこうした先生に対して、果たして村民が、村役場がどんな接し方をしているかという問題です。

特に自治医大卒業生が定期的に派遣されるような自治体になると、「ふん、今度の医者は‥」といったあからさまな不満を言ってのける村民が出て来ます。またその村に骨を埋めようという、最も尊敬すべき医師に対しても、もはや使用済みの医者という扱いをしているところもあります。

悲しいです。

コメントありがとうございました。
by 筍ENT (2009-02-21 16:45) 

NO NAME

ただほど高くつく物はない。
by NO NAME (2010-03-12 00:21) 

筍ENT

ご訪問ありがとうございます。

ただ、とは努力せずに医師を確保出来た、自治医大卒業生派遣自治体でしょうか。またはこの記事の上小阿仁村でしょうか。

いずれにしても行政や一般の人に医療供給の大変さを少し知って頂けるとありがたいですね。
by 筍ENT (2010-03-12 08:51) 

noimg

正直過疎化して廃村にでもなってしまえ!と思いますね
人が生きていく上で医療の充実は衣食住に続く必須条件です。
何の利点も無く、給料すら地方都市より低い僻地に半分ボランティアで勤務したにも関わらず、学も識も無い存在価値すら微妙な阿呆村民に苦しめられる必然性は全く無かったと思います。
人の厚意を踏みにじり医者を馬鹿にする村など苦しんだ上で潰れてしまえばいいんですよ。
by noimg (2010-03-13 15:34) 

筍ENT

ご訪問ありがとうございます。

私もそう発言してしまいたい、そういう気持ちになることもあります。ただ、多くの村民がその医師を大切にして、慕ってくれたりする一方で、一部の不心得者が医師の心を折ってしまう、そんな図式が目に浮かびます。

現実にはどうしたら良いのでしょうね‥

コメントありがとうございます。
by 筍ENT (2010-03-13 16:35) 

noimg

問題を起こすのは「全員ではなく、一部の村民」といいますが、実際の所、村民全員、もしくは過半数以上が医者の受ける被害を黙認していたと思うんですよね。そんなに人口が多いわけではない村に1人の医者。田舎の噂ネットワークは恐ろしい物がありますよ?隣の家の給料がいくら、どころか昨日の晩に何回おかーちゃんとお楽しみだったまで流れるのが田舎ってモノです。 結局の所、何が起ころうが所詮、医者は余所者でしかなく、問題起こそうとも村民が大事(村民同士の結託>>超えられない壁>>医者の被害)という図式が成り立つのではないでしょうか? 上小阿仁村の年代別人口を見ても70-80代が多く、近代教育も受けていないような方々が多いですから、そういう偏った思考に向くのは仕方ない部分ではないのでしょうか? 辛口な意見ではありますが、現代社会において、あるべき道を踏み外して進むことを自ら選んでいるのですから、廃村に向かい、自然淘汰されていくのが誰にも被害の無い、最もベストな未来だと思います。
by noimg (2010-03-14 18:59) 

筍ENT

ご訪問ありがとうございます。

田舎のそうした“困ったネットワーク”、私自身も多少経験があります。ただ秋田の上小阿仁村ほどの厳しい状況ではなかったので、そもそもこのニュース記事には驚いたというのが本音です。

都会ではマンションの隣の部屋にどんな人が住んでいるかもわからない状況で、あまりに地域のつき合いが希薄になっているのと、両極端ですね。

確かに医師を2人も追い返してしまった上小阿仁村は、反省が必要ですね。私自身もこの村に自治医大卒医などを派遣して欲しくないです。

コメントありがとうございます。
by 筍ENT (2010-03-14 21:04) 

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