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医療訴訟・アメリカ式損賠請求? [診療]

東京新聞 「診断ミスで死亡」自治医大を提訴 さいたま市の遺族

自治医大さいたま医療センター.jpg 自治医科大学付属さいたま医療センターで治療を受けたさいたま市の六十代の男性が悪性リンパ腫関連血球貪食症候群で死亡したのは医師の診断ミスなどが原因として、男性の妻らが同大に慰謝料など約四千二百万円の損害賠償を求め、さいたま地裁に提訴していたことが二日、分かった。

 訴状によると、男性は昨年六月二十八日、白血球数などが異常な数値を示した別の病院での検査結果を持って同センターで受診、一過性の感染症と診断された。再検査で同症候群と診断、七月六日に入院、三日後死亡した。

 原告側は「医師は早期に同症候群を疑うことや、適切な検査や治療を怠った」としている。同センターは「コメントは差し控える」としている。


さいたま地裁3.jpg繰り返し書いてきたように、診断/治療行為がベストコースでないと後から考えると、それは医療者の過失だ、賠償しろ、という構図が医療裁判には見えます。そして民事だけでなく、それを以て業過致死傷罪を適用しようと検察が動くこともあります。

機械工業と対極にある、不確定要素の集大成のような人体を扱う医療には全くそぐわない考え方です。
白血球数が低下したからと言って、全ての患者に血球貪食症候群を疑えというのはあまりに非現実的です。またこの患者さんには、同大初診時から1週間後には診断に到っています。確かに入院後の経過は不幸なものになりましたが、診断が数日早まったからと言って救命できた「高度の蓋然性」があるとでも言うのでしょうか。むしろ結果は変わりなかったのではないかと想像します。

もし仮に、診断が数日早まり、治療開始がその分早まったら、原疾患の悪性リンパ腫まできれいに治癒して、退院後天寿を全う出来たと考えているのでしょうか。
九大内科・故柳原敏幸名誉教授の論文によると、造血系腫瘍に血球貪食症候群を併発した場合の予後は7ヵ月とあります。百歩譲っても、7ヵ月程度の延命が望めた可能性もなしとはしない、という程度になるのではないでしょうか。

4200万円もの損賠請求は、考えたくはありませんが、モンスター遺族によるものか、そそのかした弁護士がいるのか、と思ってしまいます。米国の訴訟を見習ったのでしょうか。

誤った判決が出ないことを祈るばかりです。
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鶴亀松五郎

わたしもさいたま市の総合病院に勤務していた時に、自治医大の血液内科に患者を紹介したことがあります。
専門医が少なくて、ある程度は入院をセーブしていた感じですが、私は納得していました。
外来で出来る検査は外来で、一通りの検査が終わったら、診断つけて化学療法でしょう。

大学病院に紹介すれば、即診断、即治療って、循環器・心臓外科系や脳外科系、外傷系、消化器の吐血下血系でもないかぎり、不可能です。

勘違い家族の暴走、わたしはそう取ります。
by 鶴亀松五郎 (2008-12-09 20:52) 

筍ENT

鶴亀先生、ご訪問ありがとうございます。そして貴重なご経験をありがとうございます。

ご指摘のように、領域にもよりますが、このような血液内科領域の診断がすぐにつくのは不可能と考えて良いですよね。あまりに患者サイドが無理な要求をしているとしか、私も思えませんでした。

似たようなケースが亀田総合病院のテオフィリン中毒(自殺企図の疑い)のケースで、無茶な裁判をついに最高裁が追認してしまいました。あのような馬鹿げた判決を二度と許してはならないと思います。

このニュース記事も同様の愚かな判断が示されないことを祈るばかりです。

コメントありがとうございます。
by 筍ENT (2008-12-09 21:31) 

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