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医療と採算 [医療制度/行政]

河北新報 民営化で黒字達成へ 花巻市石鳥谷医療センター

石鳥谷医療センター鎌田院長.jpg 市立の診療所で赤字経営だった岩手県の花巻市石鳥谷医療センターが、民営化によって本年度の黒字がほぼ確実となった。コスト意識を徹底しながらサービス向上を図り、岩手県内市町村の公立医療機関で唯一導入した指定管理者制度が奏功。だが、医療関係者には民間活力に否定的な見方をする人もいて、地域医療のあり方に一石を投じそうだ。

 この医療センターを運営するのは医療法人中庸会(花巻市)。診療所や老人保健施設を経営し、2008年度に市から引き継いだ。市や法人によると、昨年4月以降、センターの入院患者は1日平均で10.0人(前年度5.2人)、外来患者は67.9人(同43.8人)と増え、初年度の黒字は達成できそうだという。

 黒字経営はコスト意識を持ちながら各種サービスアップに努めたことだ。脳卒中の後遺症に悩む患者らへのリハビリ設備を充実させる一方、市運営時に年間300万円もかけていた清掃経費を3分の1に減らしたり、薬も院内処方から院外処方へ切り替えたりした。

 似内裕理事長(64)は「公立時代に本気に取り組んでいなかった経費削減を徹底させた成果だ」と胸を張る。

 中庸会は約3キロ離れた近所に別の診療所を持ち、互いの医師が連携できることも大きいという。

 センターはもともと赤字続きだった。一般会計からの繰入額は毎年1億2000万―1億3000万円。唯一の常勤医師も07年度末には定年退職が迫っていた。

 花巻市は指定管理者制度の活用で公設民営化を模索。独立採算を条件とした中庸会との契約について「市として新たな支出もなくなり、ほっとしている」と藤井広志・保健福祉部長は話す。

 総務省が2007年12月に公表した「公立病院経営改革ガイドライン」は3年以内の黒字化達成を求める内容になっており、自治体病院の民営化は全国で加速しつつある。

 こうした流れに、県立中央病院の元院長で自治体病院経営に詳しい樋口紘医師は否定的な見方を示す。「医療には不採算だが住民に不可欠な部分がある。例えば過疎地や救急・産婦人・小児の医療などで、これが民営化によって切り捨てられる恐れがある」と指摘する。

イーハトーブ病院.jpg 関係者が例に挙げるのが、廃止された岩手労災病院の後継として07年4月開院したイーハトーブ病院(花巻市)。医療法人を誘致した市は、無償貸与する施設の取得や3年間の運営補助に総額11億円を支出するが、診療科は13科から5科に縮小、外来患者も大幅減となった。

 地域医療での民間活力はどうあるべきか。似内理事長は、岩手県医療局が6カ所の県立病院・地域診療センターの無床化を進める計画に言及しながら、「採算の問題はある。だが、開業医は街にあふれている。県は民力を利用できるか、時間をかけて(県民と)議論すべきだったのではないか」と語った。

[花巻市石鳥谷医療センター] 前身は1963年開院の旧石鳥谷町立石鳥谷病院。2000年に移転新築して診療所化し、合併後は花巻市が引き継いだ。08年4月から医療法人中庸会が市の指定管理者。診療科は内科、外科、脳神経外科、リハビリテーション科、麻酔科の5科。19床。


以前別の記事で書いたように、医療はサービスではなく、国民の安全保障政策の一つである、と述べた評論家がいました。これには同感で、他国で被害を被った邦人を救出したり、北朝鮮の拉致事件解決を目指すことも大切ですが、国民全てが医療を受けられ、可能な限り健康を維持しようとすることが出来ることは、国民の権利であり、国家の義務であると考えます。

石鳥谷医療センター.jpgこの考え方が受け入れられるのなら、そもそも医療費自己負担額が存在したり、まして国保保険料滞納を理由に保険証を取り上げるような行政は大いに間違っていることになります。

その問題はとりあえず別にして、医療機関自体について考えてみると、国民の医療を受ける権利を第1に捉えるのなら、不採算であろうが、各地に全科揃った病院を整備するのは国や自治体の義務と思います。採算・不採算を問題にするのは最初から間違っていると考えます。
一般会計からいくら繰り入れようと、その結果自治体、もしかして国の財政がいかに厳しい状況になろうとも、これは必ず守るべき「聖域」であると考えます。

現実的にはこうした公的医療機関のみで多くの患者の医療を請け負うことは不可能ですから、開業医の存在が必要となります。事実上個人経営の開業医ではどうしても採算が問題になりますが、これらの開業医から依頼のあった高度医療・専門医療を要する患者の受け皿として、どうしても採算を度外視した公的病院の存在は必要不可欠と考えます。

こうした公的医療機関を採算優先で公設民営化するのであれば、診療科を揃える、各科医師数を必ず確保する、などの条件が必要と思います。名乗りを上げる民間医療法人などがなければ、採算はとりあえず無視して、地域住民の疾病に対応する病院を引き続き国や自治体が運営していくことは絶対に必要だと考えます。

採算が国民・地域住民の健康に優先されるようなことこそが「あってはならない」と思います。
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きゅんぱち

病院経営については不勉強なので、この分野のコメントは控えさせていただきますが、ただ言えるのは、病院「経営」と一般の企業「経営」とは内容が異なっているようなので一口に経営改革といっても日経ビジネスに載っているようなたとえば
「企業経営革新の本質」
などといったような武勇伝式のノウハウが(苦笑)、病院「経営」の改革に簡単に応用できるものなのかどうか、その辺りが分からないところではありますよね。
by きゅんぱち (2009-06-03 01:23) 

筍ENT

ご訪問ありがとうございます。

私も学生の時の「病院管理学」などは苦手でよく覚えていません。ただ、基本的な考え方として、企業経営の手法を全てに優先すべきものとして導入したとしたら、理想的な医療から遠ざかるのではないかと懸念しています。

医療事故ですぐ使われがちな表現「あってはならない」、これはそういう場面ではなく、採算を理由に地域住民に本当に必要な医療機関がなくなってしまうこと、についてこそ声を大にして言いたいと思います。

コメントありがとうございます。
by 筍ENT (2009-06-03 08:34) 

Quri

私がいつもコメントさせてもらう現代の日本社会の実力、人々の欲望とモチベーションの本質、その中での優先順位、を考えると先生の提案される理想医療体制、聖域、の実現は不可能でしょうね。
 実際すべての医療が無料である日本をシミュレートしてみると、残念ながら無料であれば必ずしも節度ある受診ができる我々ではありません。国全体の医療費は即刻約2倍になるでしょう。加えて、採算が取れないことが確定的な医療機関に一定レベル以上の医療を確保するとなると補助金などの名目でかなりの予算を覚悟しなければなりません。

 ここでふと考えるとほんの数十年前(僻地医療の問題などはあったものの)医療は限りなく無料に近く採算も取れていた時代がありました。大きな混乱なくこれに近い医療体制の社会が実現していたわけです。
 現代社会にこれを再現できない原因は何か。もちろん人口の老齢化などもあるでしょう、しかし一番の理由は人々の「責任感と権利意識のバランス」に変化が生じたからであると考えます。この件では以前に「現在が医師不足であるか」という内容の投稿をさせてもらいました。
 このバランスの変化に対する善悪の評価は難しいところです。しかし、石油もその他の資源も出ない国土、食料自給も世界の最低レベルの日本において、なぜほとんどの国民が世界最高水準の生活環境で暮らしていられるのか。そしてなぜ平均寿命が世界最高なのか。こいつを皆んなでもう一度考えてみる必要がありますね。

 国と個人、企業と個人の関係の中で、自分が果たしている責任とその結果としての権利を突き詰めて考えることは、下手をすると右翼的思想につながりかねません。そうかと言って現在の流れを放置すると頭だけ巨大化した蛸が自分の足(過去の商売成功のお陰でまだ何本か足が残っている)を食っているだけの社会に向かっているように思えてなりません。

by Quri (2009-06-03 21:12) 

yuki999

兄も医師なのですが
いろいろ大変みたいです
by yuki999 (2009-06-04 07:51) 

筍ENT

Quri先生、yuki999さん、ご訪問ありがとうございます。

現実には医療の聖域化、理想の体制の構築は無理であるとのご指摘、なるほどと思います。数十年前の医療体制の方が、まだ今より理想郷に近かったのは本当になぜだろうと思ってしまいます。

理想郷を作ることは現実には難しいとしても、ますます医療を国民から遠ざけ、「貧乏人は死ね」状態に向かって行くことに棹さして行きたいとは思っているのですが‥。

引き続きQuri先生のご意見をお聞かせ頂きたいと思っております。


yuki999さんのお兄様は勤務医でしょうか、開業されておられるでしょうか。どちらも苦労が絶えないと思います。色々ご紹介下さい。

コメントありがとうございます。
by 筍ENT (2009-06-04 08:44) 

Quri

なぜ過去の良き?時代の医療環境が現在に再現できないか。理由はいくつもあるでしょうが、大きく分けて以下の3点に集約できるのではないでしょうか。

1.人口の老齢化、保険を支える健康な勤労世代が減少し保険を利用する人が激増したため医療費が不足してきた。また医療者数も不足してきた。

2.医療の先進化、医学自体の進歩によりその先端部分では費用を厭わない医療が行なわれるようになったため医療費が不足してきた。また医療者数も不足してきた。

3.人々の権利意識の変化、社会が成熟してきて人権に関する意識を各人が持てるようになった、最新、最善の医療をわずかな費用で受けられる事とその結果が良好である事の2つが当然と認識されるようになった。このため医療費が不足してきた。また医療者数も不足してきた。

医療改革のためには、これらの問題点をしっかりと認識しひとつずつに地道な分析と対応をするしかない、というのが代わり映えはしないですが常道であろうかと思います。

1.に関しては、現在の国の方針で概ね間違いはないと思います。もちろんその中で後期高齢者の費用負担や、保険料納入厳正化の是非などの諸問題はありますが多くは制度上の問題です。先生がよく指摘される保険証取り上げの問題などは、個別に保険料未払いの理由を検証し,場合によっては医療保険だけでなく生活全体のサポートが必要でしょう。そもそも現在の生活保護適用を,主として被保護者自身からの申請によっている点にも疑問が残ります。またその時点の日本の実力を考慮してベーシックなサポートラインはどのあたりか、社会の先端を行きこれを支える人も、不本意にも今はサポートされる側にまわった人も、ともに納得できる線を、時代にフレキシブルに設定しなければなりません。

2.に関しては、なによりも冷静な費用対効果を見極める必要があると思います。医療と名がつけば何に対しても最高を求められる時代ではありません。社会の実力も限界に来ていますが、医学の進歩の結果として「普遍性」という意味において否現実的な医療までどんどん報道されています。ところがこれらが社会全体の医療や福祉のなかでどう位置づけられるかという議論がほとんどなされていません。私自身も勉強不足で答えを知っているわけではありませんが身近なところであえて一例を挙げるとすれば、高脂血症の治療などはどうでしょうか。日本全体でどのくらいの費用がかかっているのか、薬物治療の開始基準や検査頻度の基準は医師の裁量権を踏まえた上でどうあるべきか、またそれが守られているのか、心筋梗塞や脳血管障害と高脂血症の統計学的因果関係はどの程度結論付けられたか、国民全体の中でこれらの疾病に対する回避願望の程度の調査はどうか、仮に全体の高脂血症の治療費を半分にして介護の分野に廻したときどんなことが実現するか、また逆にそのときの製薬会社の雇用調整の見通しはどうか、などなど。私はこれらのことが行政やメディアの大切な使命と考えるのですが、充分な検証や問題提起はなされていないように思えます。

3.に関しては、常々コメントさせてもらうように現代医療の一番の問題点であると考えています。The rich are not always happyなどと的はずれな格言をもちだして投稿させてもらったこともありましたが、幸福というものは実際面と個人のセンサーの両方に左右されます。医療に限らず、現代社会にはこのセンサーの面での不幸が多く存在する気がしてなりません。しかしこれを改善(?)することは容易ではありません。もし希望があるとすればメディアの使命感と地道な教育でしょうが、その中身はとなるとさらに何ページも駄文を連ねてしまいそうです(笑。

これらの対策を国民にわかりやすく説明しながら、政策として一歩一歩実現して欲しい、という切なる願いが私にはあります。ところが最近では医師の専門科や赴任地の規制をしてはどうか、などの見当はずれの意見まで聞かれます。医療は人が行なうことです。良い仕事、よいサービスはどういう環境から生まれるのか、規制や指導で固めていった分野において過去に成功したためしがあるのか、そこのところをよく考えて欲しいものです。

引き続き意見を、と書いていただいたを良い事に、ついつい長居をして失礼しました。これら点に関する先生の意見をまた是非お聞かせください。


by Quri (2009-06-04 15:01) 

筍ENT

Quri先生、丁寧に論点をまとめて頂いてありがとうございます。問題をこのように整理して頂くと、私も今後愚考を重ねて行くのに大変有用です。ありがとうございます。

先生の挙げられた項目に沿って、今私が思いつくことを書いてみます。
(1)の老齢化と保険料を負担する世代の減少の問題、さらに保険料支払い能力のない人から医療保険を取り上げている現実について。
私が個人的に考えて来たのは、医療保険の保険料を別に徴収しているからこうした問題が起きるのであり、税(所得税であれ消費税であれ)に含めて徴収し、出来れば高所得者に多く負担してもらえるようになれば、少なくとも医療保険の保険証・医療症取り上げ、と言った事態は起きないだろうと思います。
自己負担をゼロにすると現実に医療費がかなりふくらんでしまうであろうという予測、どの程度になるかは難しそうですね。
開業医としては気が進みませんが、一旦窓口払いをさせて、後から手続きの上返金を受けるシステムなどが、無用の医療機関受診を少し抑制してくれるのではないかと思ったりもします。

(2)先進医療について。高度な医療機器を用いて高度な手術を行うようなケースは、多くの患者に施行される訳ではないので、医療費を大幅にふくらませることにはならないと思いますが、先生が例に出されたように、高脂血症治療のエビデンスのきちんとした見直しなどは必要でしょうね。また治療するにしても、メバロチンのゾロとゼチーアでどれほどの効果の差があるのか(医療関係者でない方すみません)なども検討に値するのかも知れません。

(3)患者さんの権利意識等。私がよく過失事故の被害者になった時の不幸の問題を挙げていますが、医療を受けて幸福感を得るかどうか、もそれと裏返しの問題のようにも捉えられるかも知れませんね。
小松秀樹氏も書いていたように、病院に行けば何でも治る、助かるという間違った思い込みがなぜ広がってしまったのか、マスコミの責任も大きいかとも思います。

先生の問題点整理大いに参考になります。
上に書き散らしたのは現時点での思いつきですから、まだまだこれから考えてみようと思っております。

ありがとうございます。
by 筍ENT (2009-06-04 22:20) 

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