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カテーテル事故、警察と報道を斬る [医療事故]

毎日新聞 <医療ミス>群馬大病院の女性医師を書類送検

群大病院.jpg 群馬大医学部付属病院(前橋市)で07年4月、群馬県桐生市に住む60代の女性が栄養管理のため体内にカテーテルを挿入する処置を受けた後に死亡した事故は、同病院の30代の女性医師が処置を誤り動脈を傷つけたことが原因として、県警は2日までに、女性医師を業務上過失致死容疑で前橋地検へ書類送検した。

 容疑は、07年4月27日、入院中の女性に摂食障害や意識障害が生じ、栄養管理のため首の静脈にカテーテルを挿入する際、誤って動脈を傷つけて死亡させたとしている。

 同病院によると、女性の遺族とは昨年、示談が成立したという。

asahi.com 挿管ミス、群馬大医師を書類送検 業務上過失致死容疑

 群馬大学医学部付属病院(前橋市)で07年4月、60代の女性患者が首にカテーテルを挿入された際、大量に出血して死亡した事故があり、群馬県警は、挿入時に動脈を傷つけたことが死亡の原因だったとして、処置をした30代の女性医師を業務上過失致死容疑で前橋地検に書類送検した。

群馬県警本部.JPG 県警や同大によると、患者は07年4月に入院。食事がとれない状態になったため、同月27日に栄養補給のためのカテーテル(直径約2ミリ)を右頸部(けいぶ)の静脈に挿入したところ、肺から大量に出血し、約7時間半後に死亡した。

 同病院では、06年6月にもカテーテル絡みの手術ミスがあり、心臓手術を受けていた男性患者(当時70)が大量出血で亡くなっている。


群馬県警の対応と、報道に抗議したいと思います。

群馬県警はなぜ書類送検などしたのでしょうか。100歩譲って、自らには捜査能力も医学知識もないので、とりあえず検察に下駄を預けた、ということなら、ただの無能な組織と言うことで抗議するのではなく、蔑むだけにします。
検察もこれを受けて起訴するような愚行には走らないで欲しいと思います。

群馬県警.jpg静脈を穿刺するという医療行為には、動脈を傷つけてしまうというリスクを伴います。私自身も鎖骨下静脈を狙って穿刺する時に、動脈を穿刺してしまい、圧迫止血をして事なきを得た経験もあります。
皮膚を大きく切開して動静脈を露出して穿刺するのではありません。この辺りに静脈があるはずだ、という方向に、手順を踏んでではありますが、針を進めます。この時に動脈を刺してしまうリスクをゼロにすることはできません。これを送検するのなら、その前に以前から主張している、違反容疑車両を追跡したらその車両が他を巻き込んで事故を起こしてしまったケースで、追跡していた警察官を送検しなさい。


次に朝日新聞の報道に対してです。

従来、医療事故に関しては毎日新聞や産経新聞より常識をわきまえた報道姿勢であるかと思って来ました。しかるにこの記事はどうしたことでしょう。
なぜ2006年の事件をわざわざ持ち出すのでしょうか。群大病院=カテーテル事故病院、という図式でも読者に刷り込みたいのでしょうか。そうだとしたら悪意に満ちています。

そして産経新聞も書いた、医学常識の欠如表題です。血管にカテーテルを挿入することは「挿管」とは決して言いません。挿管とは、気道確保の目的でチューブを気管に挿入する処置を言います。昨今救急救命士にも許された医療行為であって、紙面にも載せたはずの語句です。

医療用語とは言え、産経新聞や朝日新聞のこの誤用はそろそろ恥ずべき時でしょう。
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Quri

深部静脈にカテーテルを挿入して栄養管理を管理することをIVHと呼びます。栄養を経口摂取できなくなった人にIVHは日常的に行われる医療行為です。点滴から生命維持のためのすべての栄養を補給しようとすると非常に濃度の濃い輸液が必要となります。このような液は、嘔吐や下痢がひどい時などに外来診療で受ける、腕の血管からの点滴などでは注入できません。どうしても深い場所にある、血流量の多い静脈に点滴経路を確保する必要があるのです。
 腕や足などの末梢血管から点滴することは比較的容易で安全ですが、深部の静脈にカテーテルを挿入する行為には様々なリスクが伴います。一般の方には理解しにくいかもしれませんが、この処置は解剖学的知識と確率を頼りに、決まった部位から決まった方向に針を刺してゆく方法をとります。全ての人体が必ず同じ構造や位置関係で構成されているわけではありませんから、結果として一定の確率で必ず失敗が生じます。この失敗をすべて否定し訴追するのであれば、逆にIVHで救われるはずの比較にならないくらい多くの命をむざむざ犠牲にしなければなりません。
 この処置で起こり得る、いわば不可避な失敗のうち確率が高いものとして、動脈を損傷して大量の出血を起こすこと、肺を損傷して空気漏れや水浸しにしてしまうこと、バイ菌の感染を引き起こしてしまうこと、などが挙げられます。誤解を恐れずに言うと、IVHによる動脈損傷は日本中で毎日、何件も起こっている事象です。従って当然のことですが、医療の現場ではこれらの危険には細心の注意を払い、またフェイルセーフを含めた事後の確認がなされています。ここまでの事は、いやしくも治安や報道を司る立場としては最低限必要な知識です。
 この記事で対象とされている医療機関においても、IVHカテーテル挿入時とその後にいかに重大な注意義務違反があったかを検証しなければ、犯罪にも報道にもなりようがありません。

 ちなみに血管にカテーテルや針を挿入する行為を挿管とは決して言いません。「血管カテーテルを挿管した」と記載することは、たとえて言うなら「航空機を運転していた」と書いているのと同じことで、報道としては恥ずかしい以前の問題です。入口でこういう誤りをしている記事は続きを読む気も起らないと言うべきでしょう。

先生の趣旨を説明しなおすと概ねこのようになるのでしょうか。

by Quri (2009-06-14 22:23) 

筍ENT

Quri先生、ありがとうございます。

ついつい医療関係者向けに書いているのか、患者さんはじめ一般の人向けに書いているのか、中途半端になっているところ、徹底的に一般の人向けにわかりやすく書いて頂きました。

群馬県警への怒り、報道への不信のあまり、わかりにくかったかも知れない文章を書いてしまいました。

もう少し練って書かないといけないかも知れませんね。
拙文をほぐして頂き、ありがとうございます。
by 筍ENT (2009-06-15 23:25) 

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