在宅医療と医療政策 [医療制度/行政]
asahi.com いきる(2)患者と医師 結ぶきずな /栃木
亡くなるまでの半年余り、主治医の高橋昭彦さん(46)はシゲコさん(82)宅を30回ほど診察に訪れた。2週間に1回ほどだったのが、病状の進行とともに週1回、連日と機会は増えた。
ある日、体調の確認や薬の処方が終わると、いつものようにシゲコさんとのおしゃべりが始まった。
「小学校から女学校までバスケットボールをしていたんですよ。シュートが得意でした」「孫たちが可愛くて。一人ひとりにニックネームを付けているんですよ」。主に話をするのはシゲコさん。高橋さんはじっくり耳を傾ける。
帰ろうと立ち上がると、「先生、おなかの辺りが痛くてね」。そばにいた長男の妻のチヒロさん(50)が笑って目配せした。「先生に帰って欲しくないんですよ」。診察は、しばしば1時間近くになった。
□ □
「病院から自宅へ」の流れを進める厚生労働省は06年度、在宅ケアの担い手を確保しようと「在宅療養支援診療所」という新制度を作った。患者からの連絡を24時間受けられる医師や看護師、他の医療機関と連携した診察や訪問看護を進める態勢など、いくつかの要件を満たした診療所が認定される。在宅で看取った場合などに診療報酬を一般診療所より手厚くする仕組みだ。
県などによると、10月1日時点での認定診療所は、県内に118カ所。診療所全体の9・5%にあたる。ただ、半数近くは宇都宮市や足利市など人口の多い上位5市に偏在し、在宅ケアの取り組みの実績が公表されていないなど課題も多い。
□ □
高橋医師が院長を務める宇都宮市の「ひばりクリニック」は現在、2~99歳の在宅患者約35人を抱える。医師は高橋さん1人。週4日の半日は外来もする。緊急の呼び出しに備えて宴席でもお酒を控えなければならない。体力的、精神的に厳しいのが現状だ。
亡くなる2週間ほど前の10月中旬、高橋医師が県外に出かけなければならない日があった。「緊急時は別の医師が対応するので大丈夫です」と伝えると、シゲコさんは悲しそうな顔で「先生を信頼しています」と泣き出した。
出かける前夜、高橋医師は仕事が終わってからシゲコさん宅を訪れた。
呼吸が苦しくなったシゲコさんは酸素マスクを付け、食事も重湯をスプーンに少し食べる程度。ベッドに腰かけたシゲコさんに、高橋医師は「何か気がかりなことはありますか」と尋ねた。シゲコさんは、うつむきがちに答えた。「たくさんあります。死んだら何も残らないんですよね」
高橋医師はシゲコさんと向き合い、答えた。「そんなことはありません。心が残ります。みんなシゲコさんのことを覚えていますよ。忘れません」
(患者、家族は仮名です)
こうしたニュース記事には、やや話を美化したり、わかりやすく問題点を省いたりするケースもあるかと思いますが、この記事はあまりそういうことはないと思います。実は彼は個人的に知っている医師だからです。
このように在宅医療がうまく行われ、それが経済的にもきちんと報われているのであれば問題ありません。
しかし私は厚労省を信用していません。医師会が弱体化した今、医師達を手玉にとって経済的に自分たちの恣意で翻弄しているように思われて仕方ないのです。
例えば医薬分業促進を訴えて、薬価差益をなくし、調剤薬局での処方技術料などを手厚くして、分業化を促進させます。ひとしきり分業が進むと医療費総額が伸びてしまったことに気付き、今度はそれに冷や水を浴びせるが如く、薬局の報酬を切り下げるような政策を打ち出します。
後発医薬品使用を促進させようと、処方箋形式を変更し、後発品変更「可」をデフォルトとさせ、「不可」のためには医師の署名や捺印を求める方式に変えようとしています。後発医薬品の信頼性が最近高まったという話は寡聞にして知りません。
特にこの処方箋については、かつてのNTTの発信者番号通知導入を彷彿とさせます。発信者番号通知導入の際、NTTはデフォルト通知とデフォルト非通知を、わざと「発信毎非通知」などというわかりにくい言葉で表現し、利用者を煙に巻いて、大部分の電話をデフォルト通知にしてしまいました。
それはさておき、こうして在宅医療に手厚い政策を採っている間は良いのですが、これが普及、全国で大きく動き出した後にまた診療報酬切り下げなどを言って来るのではないかと危惧します。
ニュース記事のように一軒一軒を医師が訪ね、患者さんと時間をかけて話をしケアをして行く体制は、医療者の良心だけでは支えきれません。
役人の机上のプラン、ことに医療費抑制しか彼らの頭にない状態では、今後も安心できません。
亡くなるまでの半年余り、主治医の高橋昭彦さん(46)はシゲコさん(82)宅を30回ほど診察に訪れた。2週間に1回ほどだったのが、病状の進行とともに週1回、連日と機会は増えた。
ある日、体調の確認や薬の処方が終わると、いつものようにシゲコさんとのおしゃべりが始まった。
「小学校から女学校までバスケットボールをしていたんですよ。シュートが得意でした」「孫たちが可愛くて。一人ひとりにニックネームを付けているんですよ」。主に話をするのはシゲコさん。高橋さんはじっくり耳を傾ける。
帰ろうと立ち上がると、「先生、おなかの辺りが痛くてね」。そばにいた長男の妻のチヒロさん(50)が笑って目配せした。「先生に帰って欲しくないんですよ」。診察は、しばしば1時間近くになった。
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「病院から自宅へ」の流れを進める厚生労働省は06年度、在宅ケアの担い手を確保しようと「在宅療養支援診療所」という新制度を作った。患者からの連絡を24時間受けられる医師や看護師、他の医療機関と連携した診察や訪問看護を進める態勢など、いくつかの要件を満たした診療所が認定される。在宅で看取った場合などに診療報酬を一般診療所より手厚くする仕組みだ。
県などによると、10月1日時点での認定診療所は、県内に118カ所。診療所全体の9・5%にあたる。ただ、半数近くは宇都宮市や足利市など人口の多い上位5市に偏在し、在宅ケアの取り組みの実績が公表されていないなど課題も多い。
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高橋医師が院長を務める宇都宮市の「ひばりクリニック」は現在、2~99歳の在宅患者約35人を抱える。医師は高橋さん1人。週4日の半日は外来もする。緊急の呼び出しに備えて宴席でもお酒を控えなければならない。体力的、精神的に厳しいのが現状だ。
亡くなる2週間ほど前の10月中旬、高橋医師が県外に出かけなければならない日があった。「緊急時は別の医師が対応するので大丈夫です」と伝えると、シゲコさんは悲しそうな顔で「先生を信頼しています」と泣き出した。
出かける前夜、高橋医師は仕事が終わってからシゲコさん宅を訪れた。
呼吸が苦しくなったシゲコさんは酸素マスクを付け、食事も重湯をスプーンに少し食べる程度。ベッドに腰かけたシゲコさんに、高橋医師は「何か気がかりなことはありますか」と尋ねた。シゲコさんは、うつむきがちに答えた。「たくさんあります。死んだら何も残らないんですよね」
高橋医師はシゲコさんと向き合い、答えた。「そんなことはありません。心が残ります。みんなシゲコさんのことを覚えていますよ。忘れません」
(患者、家族は仮名です)
こうしたニュース記事には、やや話を美化したり、わかりやすく問題点を省いたりするケースもあるかと思いますが、この記事はあまりそういうことはないと思います。実は彼は個人的に知っている医師だからです。
このように在宅医療がうまく行われ、それが経済的にもきちんと報われているのであれば問題ありません。
しかし私は厚労省を信用していません。医師会が弱体化した今、医師達を手玉にとって経済的に自分たちの恣意で翻弄しているように思われて仕方ないのです。
例えば医薬分業促進を訴えて、薬価差益をなくし、調剤薬局での処方技術料などを手厚くして、分業化を促進させます。ひとしきり分業が進むと医療費総額が伸びてしまったことに気付き、今度はそれに冷や水を浴びせるが如く、薬局の報酬を切り下げるような政策を打ち出します。
後発医薬品使用を促進させようと、処方箋形式を変更し、後発品変更「可」をデフォルトとさせ、「不可」のためには医師の署名や捺印を求める方式に変えようとしています。後発医薬品の信頼性が最近高まったという話は寡聞にして知りません。
特にこの処方箋については、かつてのNTTの発信者番号通知導入を彷彿とさせます。発信者番号通知導入の際、NTTはデフォルト通知とデフォルト非通知を、わざと「発信毎非通知」などというわかりにくい言葉で表現し、利用者を煙に巻いて、大部分の電話をデフォルト通知にしてしまいました。
それはさておき、こうして在宅医療に手厚い政策を採っている間は良いのですが、これが普及、全国で大きく動き出した後にまた診療報酬切り下げなどを言って来るのではないかと危惧します。
ニュース記事のように一軒一軒を医師が訪ね、患者さんと時間をかけて話をしケアをして行く体制は、医療者の良心だけでは支えきれません。
役人の机上のプラン、ことに医療費抑制しか彼らの頭にない状態では、今後も安心できません。
こんばんはぁ
冒頭の話でほのぼのとしてしまいました(。・ω・)
今日も30何件断られたなどの、
ニュースがあっていましたね。。
それにかかわる仕事をしているCBさんも
安心して仕事できないですよね^^;
医師が足らず患者は増え。。。
簡単に解決できない問題とはわかっていても、
どうにかならないものかと考えてしまいます
by maju (2008-03-02 23:16)
コメントありがとうございます。
私などは既に立ち去り型サボタージュ(厳しい病院勤務生活から脱出してしまう)をかなり前に実行してしまったので、偉そうなことは言えません。
ただ、医師の実践する医療に経済的裏付けをしてもらえないと、医療崩壊は止まらない、と思います。
これ以上の医療費抑制策はいい加減にやめて欲しいと願うばかりです。
by 筍ENT (2008-03-03 23:24)