改憲論と権力 [生活/くらし]
朝日新聞 <60歳の憲法と私>ムード的改憲論に警鐘 名古屋大大学院教授 浦部 法穂さん
今の改憲論はムード的だ。古くて時代に合わなくなったから、日本の伝統に合わないから、と言われる。だが、具体的に憲法のどこが悪いのかがきちんと議論されているわけではない。
このムードは第1次大戦に敗れ、1919年にワイマール憲法が制定された後のドイツと似ている。最も民主的な憲法とされていたが、戦後に屈辱的な賠償金を請求されるなか、国民の間で憲法があっても生活には何の役にも立たないという風潮が醸成された。
憲法が大切にされないとどうなるか。憲法が権力を縛るのでなく、権力が正義そのものになる。やがてナチスが台頭し、ヒトラーは正義を掲げて独裁者となった。
日本でも最近、権力に対する警戒心が民衆の間で薄くなった。象徴的なのが街のあちこちにある防犯カメラだ。住民の要望でどんどん設置されている。権力は警戒対象でなく、正義の味方と思われるようになってきた。
改憲論のなかには、環境権やプライバシー権、犯罪被害者の権利など、時代が必要としている権利を盛り込むべきだという議論がある。しかしこれらの権利は憲法に明記されている必要はない。個人の尊重と生命・自由及び幸福追求に対する国民の権利を定めた憲法13条から導き出せる。13条は包括的な人権保障規定であり、いわば「ドラえもんのポケット」のようなものだ。
現憲法は国民の権利について、「公共の福祉」に反しない限り尊重されるとしている。それは他人の人権を侵害しない限りという意味だ。自民党の新憲法案は、これを「公益及び公の秩序」に置き換えた。これは現憲法の人権保障の理念を180度転換することにほかならない。
うらべ・のりほ 61歳。神戸大副学長を経て04年4月から現職。著書に「憲法学教室全訂第2版」(日本評論社)など。
この記事はネットでは見つけられませんでした。新聞紙面のこのコラムを引用します。
的確に改憲論の大きな問題点を論じ、素人の私にはとても書けない貴重な意見と思います。私ごときが付け加えるようなことは何もありません。
今の政権、改憲に何となく賛成している人たちに、この浦部教授の文に反論してみてもらいたいと思います。今の権力=政府に対する警戒心を本当に持たずにいて良いのでしょうか。
ちょくちょく拝見させていただいております。
良い記事を紹介してくださってありがとうございます。
浦部教授のご持論は、なかなかおもしろいですよ。
授業は下手でしたけど、ご著書は一読の価値ありです。
by konaki (2007-05-03 21:22)
コメントありがとうございます。
改憲論の問題点をここまでわかりやすく簡潔に説いている文章に今まで出会わなかったので、思わず転載してしまった次第です。
授業が下手、というのは、大学の先生にありがちですが(笑)、少なくともこの文章は大変わかりやすいですね。著書も検索してみます。
by 筍ENT (2007-05-04 15:58)
素人に、憲法のポイントを的確に述べているといえる。
①一般人は、権力があるものを正しいとする風潮がある。
しかし、正しいかどうかは、権力のあるなしに関係のないことである。つまり、権力が悪事に向かうとき、安易に賛同するのではなく、きっちり目を開けて、悪いことは悪いのだと批判しなければならない。
②また、新しい人権が人権概念の広がりとともに唱えられるが、むやみに条文を増やすのではなく、解釈論で対応できる限りは、解釈論にゆだねる方がよい。ほぼ一定の解釈で落ち着きつつあるのだから。
③人権の制限を安易に認めてはならない。特に、権力者の都合により制限されることがあってはならない。唯一制限されるのは、他人の人権と衝突する場合のみである。
このようなことが、述べられているが、現在のムード的な改憲論に注意を促すものとして、よろしいでしょう。
by かみかほとけ (2010-12-09 19:32)
かみかほとけさん、ご訪問ありがとうございます。
古い記事におつきあい頂き、ありがとうございます。安倍晋三がしきりに改憲を唱えていた時に比べれば、昨今は憲法が話題になることも少なくなりました。しかし、権力者がまた憲法に手を突っ込んで、自らに都合のよいように変えようとすることは今後もあるでしょう。
また、ご指摘のような憲法運用が望ましいと思っています。
コメントありがとうございます。
by 筍ENT (2010-12-09 20:36)