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脳外科医療も崩壊させますか [医療制度/行政]

共同通信 賠償金800万円で和解へ 公立陶生病院が患者女性と

 愛知県尾張旭市の女性(18)が同県瀬戸市の公立陶生病院でてんかんと診断されたため脳腫瘍(しゅよう)の発見が遅れ、早期に適切な治療を受ける機会を奪われたなどとして、女性と家族が損害賠償を求めた訴訟があり、病院側が賠償金800万円を支払うことで、名古屋地裁で和解が成立する見通しとなったことが19日、分かった。

 同病院は尾張旭市など2市1町の自治体でつくる組合が運営。病院側は「早期に脳腫瘍を発見できる機会を逃した」などとして、10月1日の組合議会に賠償金を支払う議案を提出する。弁護士によると、女性と家族は受け入れる意向という。

 女性側は2005年11月、3000万円の損害賠償を求めて名古屋地裁に提訴。地裁は今年5月、800万円の賠償や謝罪などを内容とする和解を勧告した。病院側は勧告に基づきすでに女性と家族に謝罪しているという。

 訴状によると、女性は02年7月に全身けいれんを発症。同病院でてんかんと診断され、入院や通院を繰り返しながら治療を続けた。04年6月、女性が視界の異常を訴えたのを機に磁気共鳴画像装置(MRI)の検査で脳腫瘍が見つかり、翌7月に手術で摘出した。

本当はこの事案で、病院側に和解に応じないで欲しかったと思っています。しかし、医療者側は患者の不利益を少しでもなくそうと思うばかりに、こうして自らの有責を認め、また病院側も早期解決を望むことから、こうした和解には応じてしまうと思われます。

少し医療内容に触れますが、全身痙攣が発生すれば、通常てんかんを考えます。脳波検査を行い、抗痙攣剤を投与して経過を見て行くことになります。病院によっては最初からMRIなどの画像診断を行い、頭蓋内病変(脳腫瘍など)を除外しようとすることもあり得ます。

しかし、ここで痙攣を起こした患者には必ず全例MRIを撮影するか、というとこれは医師の裁量範囲と考えます。他の神経症状の有無、その他の状況を勘案して、必要なら撮影すれば良いし、さもなければてんかん治療に入ってしまうことはあり得ると思います。

この事案では、患者さんは結果的に脳腫瘍があり、確かに初期にそれを除外診断しなかったために、手術が遅くなりました。しかしその結果どういう健康被害が及んだのでしょうか。
もし腫瘍が大きくなってしまい、摘出によって何らかの後遺症が残った、早期発見で小さいうちに摘出していればその後遺症はないか、少なくて済んだ、ということなら患者さんの言い分もまだわからないでもありません。しかしそうだとしても診療時間系列における医師の裁量範囲を超えたものではないと思います。これを糾弾するのなら、最良のコースを辿らなかった医療は全て不法行為だということになってしまいます。
本事案の医療行為に過誤があり有責であるとは思えません。

まして本事案にあっては詳細不明ながら、この患者さんにいったいどんな不利益があったというのでしょうか。痙攣発症から手術まで確かに2年がかかりました。でも結果的には問題も起きていないと思います。

繰り返し著書の一部を引用した小松秀樹氏の言葉を借りれば、この事案で医療者を訴えるのは正義とは言えないと思います。
また私の想像の域を出ませんが、診断が遅れたことを奇貨としていくばくかの賠償金を取れるかも知れない、と周囲の人間や弁護士にそそのかされたのではないかとも思います。

一般的に、医師の診断・治療過程は最善の最短コースでなされるとは限りません。というより、そのように診療行為が進行することはむしろ稀です。最短でなかったことを咎めるのであれば、殆ど全ての医療行為は不法行為となってしまいます。

こうした発想をもたらすのは、医療は完璧なものであるという「幻想」だと思います。医療はいつも不確実なものである、ということを知って頂きたいと思います。


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コメント 2

さち

この件の詳細がわからないのですが、私は痙攣発作があった場合には
頭蓋内病変のルールアウトのためにCT、MRIを撮っておいた方がいいのではないかと思います。

小児の熱性けいれんでは不要と思いますが,,,,,。

それでも撮っていても見落とされただのなんだのと、いちゃもんつける人が
多い昨今ですから
やってられないっていうのが本音ですが。
by さち (2007-12-05 00:40) 

筍ENT

私自身が神経内科~精神科・脳外科の診療にあまり通じていないため、果たして現場では痙攣発作に対してどの程度画像診断が行われているか正確に知りませんでした。確かに撮影しておいた方が確実ですよね。

ご指摘の通り、それでもまだ医療内容に対してクレームを挟むケースが後を絶たないですね。
手術などを極力避ける防衛医療だけでなく、何でも編みかけ検査漬けという防衛医療も普及しそうです‥。

コメントありがとうございました。
by 筍ENT (2007-12-05 01:41) 

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