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整形外科の事故-業過致死傷罪立件の無意味さ [医療事故]

産経新聞 伊賀・患者死亡 点滴液を作り置き 県警、医師や看護師ら聴取

谷本整形捜査員.jpg 三重県伊賀市の整形外科「谷本整形」で点滴を受けた患者14人が体調を崩し、女性1人が死亡した問題で、谷本広道院長が11日記者会見し、看護師が点滴を作り置きしていたことを明らかにした。県警は点滴液に細菌が混入し感染症を引き起こした可能性もあるとみて、業務上過失致死傷容疑の適用も視野に医師や看護師から任意の事情聴取を始めた。

 谷本院長によると、10日夜、30代の女性看護師から点滴の作り置きをしていたことを聞いた。時期や数量は不明という。同医院ではマニュアルで点滴の作り置きを禁止していたといい、谷本院長は「朝礼でも、してはいけないと言っていたのだが」と話した。

 また、2年前にも点滴後に患者が体調不良を訴えたケースが2件あったが、保健所に届け出なかったことも明らかにした。

谷本整形外科.jpg 5月23日から入院患者が断続的に出たにもかかわらず、点滴を中止しなかったことについては、「患者に狭心症や糖尿病などがあり、点滴が原因とは思わなかった」と釈明。患者や遺族らには「私の不徳の致すところ」と謝罪した。

 一方、県は11日、西口裕・医療政策監を長とする緊急対策本部を立ち上げ、職員4人が医療法に基づく立ち入り調査を実施。点滴を受けて体調不良を訴えた患者が他にいないかどうか確認するとともに、同医院から提供された鎮痛剤やビタミン剤の点滴サンプルの成分や細菌の有無などを調べている。厚生労働省医療安全推進室は「点滴の作り置きを禁じる規則はないが、衛生的な環境で、少なくとも1日以内に使用するのが医学的な常識。県から詳しい状況の報告を待ちたい」と話している。


上野総合病院医師.jpgこの患者さん達が入院している上野総合病院でも、原因究明を急いでいる、という他のニュース記事も見ました。左の写真は同病院の医師達の記者会見のものです。

さてこうした事故が起きてしまった時に一番大切なことは何でしょうか。
まず最初に原因を究明すること。次に同じような事故が起きない、即ち再発防止のためにすべきことをはっきりさせることです。そしてそれを全ての医療機関に周知することです。

このために医療事故調の設立が考えられていますが、およそ理想とは離れたもので、今回立法は見送られました。しかしいずれは必要な組織であり、今回の事故のニュース記事にあるように、警察の捜査員が医院の中をうろうろする図式は、原因究明や再発防止のためには、あるべき調査からは程遠いものです。

警察の仕事は「誰の仕業か」を突き止め、その人間を書類送検することです。検察がその人間を起訴し、業務上過失致死傷罪で有罪を取り、投獄したり罰金を国庫に納めさせようとします。判決が出ると、困ったことにそれで一件落着です。彼らにはもはや再発防止などには何の関心もありません。

私が兼ねてから主張しているように、この事件で仮に医院の手落ちがあったとしても、それを刑事罰で糾弾すべきものではありません。手落ちが明らかになれば、医院が患者さんや遺族に対して謝罪と賠償を行って解決すべきものです。そして医院はこれから出来ることが望まれる事故調とともに原因を究明し、広く医療機関にそれを知らしめるべきです。

ここで出てくる警察・検察はそれを邪魔しているだけにしか見えません。

少し細かく検討してみます。厚労省も「点滴の作り置きを禁じる規則はないが、衛生的な環境で、少なくとも1日以内に使用するのが医学的な常識。‥」との見解を示しています。規則がないのですから、尚更この医院や医師を刑事罰に処する根拠はありません。

民事での解決を目指して頂きたいと思います。警察は早々に引っ込んで下さい。
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鶴亀松五郎

イギリスのNHSの中のあるNational Patient Safety Agency(NPSA)は医療エラーや診療関連死の報告制度を行う機関です。医療エラーの中には医薬品の投与エラーも含まれます。単に医療機関からのエラーの報告だけでなく、エラーを起こさないためのプログラムも提供しています。
#例えば医薬品投与エラーのページはMedication Zone、
http://www.npsa.nhs.uk/patientsafety/medication-zone

また米国の連邦保健局も医療エラーや診療関連死のリサーチを行っており、予防できるエラーや診療関連死のプログラムを提供しています。また州ごとの医療安全システムのプログラムの紹介も行っています。
#Medical Errors & Patient Safety
http://www.ahrq.gov/qual/errorsix.htm

さまざまなデータとプログラムをインターネットを通じて医療従事者が知る事ができます。

もちろん、両国とも(というか、欧米の先進国全部)は、医薬品投与エラーは故意でないかぎり刑事事件化はしません。もちろん、他のエラーや診療関連死も故意の場合は除いて、刑事事件化はしません。

医療エラーや診療関連死を何でもかんでも、刑事事件化する日本とは医療安全に対する文化が違うんです。
一体、いつになったら日本は欧米先進国のレベルに追いつくんでしょうか?
我々が提供しているのは西洋医学に基づく医療なのにも関わらず・・・
by 鶴亀松五郎 (2008-06-12 22:24) 

筍ENT

ご訪問ありがとうございます。鶴亀松五郎先生、貴重な情報をありがとうございます。

兼ねてから先進国には日本の業務上過失致死傷罪のような罪刑は存在しないということは何となく聞いていました。ご指摘の日本の医療安全文化の遅れは、今の日本の医療崩壊の根幹をなすものだと考えています。

さらに私は医療以外の事故でも、故意が含まれていない限り、刑事立件をやめて欲しいと願って来ました。

どうして日本はこんな立ち後れた刑法に縛られているのでしょうか。かつて私が想像して記事にしたことがあるのですが、やはり仇討ち文化の影響があるのかとも愚考しています。

コメントありがとうございます。
by 筍ENT (2008-06-13 22:36) 

Shin

理解と納得がいきませんね

谷本整形の件は、必要な治療を善良な管理者の注意義務を
もって行っていた結果なのでしょうか? 違いますね、どう考えても
不必要な治療(整形外科であれだけの点滴が必要ですか?)、
不潔感今日での作り置きと常温保存、管理医師としての責任回避・・

客観的、論理的に事故が必然的な結果であれば刑事罰の対象でしょう
大幅なスピード違反をしていたが、飛び出してきた人をはねたのは
たまたまであって逮捕は不当だというドライバーがあるでしょうか?

今回は警察がウロウロすべきです
それほど、医者が特権を持っているとは考えません

by Shin (2008-08-13 15:27) 

筍ENT

ご訪問ありがとうございます。

注意義務違反、という言葉は常に過失を糾弾する刑事裁判で出て来ます。
医療行為における全ての段階で、少しでも理想的でないところがあると、それについて「予見可能性があった」とし、それを「回避義務違反があった」として、不幸な結果を来たした医療行為の殆どで、業過致死傷罪を問うことが出来てしまいます。これが医療崩壊を招いたことは間違いありません。

今回の事件で、もちろん谷本整形外科に「注意義務違反」があったと言おうとすれば言えます。職員が常温保存していたことを監督すべき責任があった院長の過失である、と糾弾することは容易です。

どんな医療事故でも、不幸な結果は全て必然的な結果と言えてしまうのです。殆どの医師は前科者になってしまいます。

事故調がないために、警察がうろうろしています。

誤解のないように書いておくと、谷本医師に責任がないとか、何も悪くない、と言っているのではありません。民事的にきちんと患者さん達に必要な補償をする義務が当然発生すると思います。民事での解決を速やかに進めて頂きたいと思っています。

さて、大幅な速度違反をしていた車が人をはねた場合。私はこれでもドライバーへの刑事罰に否定的です。もちろん逮捕は不当と思います。
運過致死傷罪も業過致死傷罪同様、廃止して欲しい罪と考えており、他の記事でも主張して来ました。

飛び出して来た歩行者をはねたことを以て刑事罰にするという考え方は結果責任主義の典型です。速度違反をしていたのなら、それ自体に対しての行政処分を科し、もちろんはねた歩行者とは民事解決を図るべきで、現在の応報主義(仇討ち主義)に基づく、交通刑事罰も不毛なもの思います。

日本では当たり前のように行われている二重・三重処分に誰も疑問を差し挟まないのは、検察・警察に国民が洗脳されているからではないかと考えてしまいます。

コメントありがとうございます。
by 筍ENT (2008-08-13 19:04) 

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