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個人の刑事訴追に汲々としていると [医療事故]

産経新聞 【明解要解】子供の「不慮の事故」減らすには 医療現場での情報収集と活用カギ

子供が不慮の事故に遭遇するケースが後を絶たない。過去にはプールの事故があり、食品や玩具を飲み込み窒息する事故も起きている。夏休みを控え、日常に潜む事故の危険性を減らすにはどうしたらいいのだろうか。(特集部 津川綾子)

不慮の事故一覧.JPG

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 この6月に東京の小学校の天窓が破れて男児が転落、2年前には埼玉県の女児がプールの吸水口に吸い込まれて死亡する事故が起きている。日本体育施設協会の調べによると、プールの吸排水口に吸い込まれた事故で、この40年で小中学生約50人が死亡しており、教訓が生かされず繰り返し起きていることが分かる。

小学校天窓.jpg 食品や小さな玩具を飲み込み死亡する事故も多発している。

 国民生活センターによると、ひと口サイズのこんにゃく入りゼリーをのどに詰まらせて窒息した事故で、この13年間に7歳以下が計8人亡くなっている。海外では同様の商品を欧州連合(EU)が「窒息の危険がある」として2003年に禁止にした。だが、日本ではサイズや硬さの規制はいまだなく、ひと口サイズのまま、スーパーの棚に陳列されている。

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 「誤飲や転落…何度繰り返されても、けがに至るパターンは同じ。この現実をよく知るのは治療にあたる医師です」。小児科医で、独立行政法人・産業技術総合研究所「子どもの傷害予防工学カウンシル(CIPEC)」(東京)の代表、山中龍宏さんは医療現場での情報収集が事故予防の出発点と話す。この医師のみぞ知る事故パターンを分析するため、山中医師と国立成育医療センター(東京)などが取り組むのが、診察時に事故状況を詳しく聞き取る「傷害サーベイランス」の仕組みだ。

プール給排水孔.jpg 事故が起きた商品の使用頻度、置いてあった場所やその高さ、事故に遭った子供の年齢や発育段階、さらに治療日数を記録。これまで約8680件の事例を集めた。この5月には経済産業省が全国の医療機関(小児科)に情報収集への参加を呼びかけるDVDの配布も始めた。

 集められた情報は産業技術総合研究所が分析、「椅子(いす)の転倒」「浴槽への転落」といった家庭で起きる例を動画で公開中だ(「キッズデザインの輪」http://www.kd-wa-meti.com)。

 平成14年に男児(当時2)がカプセル型玩具をのどに詰まらせた事故で、鹿児島地裁から賠償命令を下されたメーカーは、今年、空気が通るようにカプセルに穴をあける対策を施した。

こんにゃくゼリー.jpg ひと口サイズのこんにゃく入りゼリーも、粉の配分を変えて柔らかくした会社もある。さらに昨年秋からは約18社が「お子様や高齢者の方はたべないでください」と袋にイラスト入りで表示を入れ始めた。食品に「たべないで」の表示は異例。だが、「注意喚起だけでは効果は低い。売る側の対策としては不完全」(CIPECの西田佳史さん)との指摘もある。何よりメーカーが事故情報を活用し、過去に学ぶことが重要だ。


安全知識共有ネットワーク.jpg


産業技術総合研究所の活動には敬意を表したいと思います。事故が起きた時にそれを再発防止に資することが一番大切なことです。ところがそれが実におろそかにされているのが今の日本の現状です。

私が繰り返し書いて業過致死傷罪の廃止を訴えてきた最大の目的が、この再発防止策の充実です。どうして事故が起きたか、どういう対策を取ったら再発を防げるか。それを最大限検討するには、事故関係者からの詳細な情報提供が必要です。

ところが、業過致死傷罪で刑事告発されることになった“容疑者”は当然多くを語りません。保身が全てに優先します。そしてこれは咎められることでも何でもありません。憲法38条が黙秘権を保証しています。何人も自らを不利に貶める供述を強制されてはなりません。

従って、過失を罰しようとする、この上ない不合理な刑法の例外的な規定によって、事故再発に不可欠な大切な情報が表に出ることがなくなってしまうのです。

医療事故調案でこれが議論されています。そしてそれは医療事故にはとどまらないはずです。

しつこく書きます。業過致死傷罪を廃止しましょう。
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山本勘助

またまたお邪魔いたします。以下は交通事故関係を前提に書かせて頂きます。
業過致傷罪がなくなっても、加害者が保身に走る構図は何ら変わらないと思います。賠償責任を少しでも軽減しようと自分に不利なことは喋らないでしょう。真相を明らかにするために積極的に情報を開示したかどうかを刑事罰の軽重に反映させるといった方がむしろ情報開示(提供)は進むと思います。警察は民事不介入ですから、「事故」の真相解明についてはやはり警察などの捜査を経る必要もあり、刑事裁判というのは必要であると思います。個人的には、民事で和解し、被害者や遺族側から減免等の申し出があれば、それに準ずるという方法が良いと思います。賠償金等の支払い状況に応じて刑事罰を減免し、支払能力がなければ一切減免しないという刑事・民事の両面でバランスを取っていくのが現実的ではないかと思います。刑事責任を問われず、賠償金も支払わない(保険等で賄い切れない)で済まされるというようなことがあってはならないでしょう。
過失については全て一律に刑事責任を問うべきでないと声高に叫ばれると、バランスを取る意味でも絶対に業過致傷罪をなくすべきではないと思いますし、厳罰化もやむを得ないという考えに傾いてしまいます。最近の調査では交通事故の厳罰化によって、飲酒運転やひき逃げが大幅に減少したそうです(大本営発表みたいなものですから、多少バイアスの掛かった調査だとは思いますが)。自動車や自動二輪等を運転する方は、事故を起こせば刑事責任を問われるということを念頭に、注意に注意を重ねて安全運転を徹底してほしいと思います。極論をいえば、それが嫌なら運転するなということになります。安易な気持ちで自動車等を運転している人が実に多いと感じています(自分は普通者免許を所持していますが、事故を絶対に起こさない自信がないので運転はしていません)。
by 山本勘助 (2008-10-12 00:14) 

筍ENT

たびたびご訪問ありがとうございます。

私は法律の素人ですから、過失という言葉を素直に「ミス」「うっかり」などと捉えています。業過致死傷罪の要件の中に出てくるる「予見可能性」「回避義務違反」は運過致死傷罪でも同様と思いますが、拡大解釈をすれば、そもそも自動車運転そのものは人身事故を起こす危険がある。それを承知でハンドルを握ったことは事故の回避義務違反である。従って自動車事故は全て運過致死傷罪となる。‥ということになります。

その結果山本勘助さんのように運転をしない、という選択もありますが、現実にはそうも行かないケースが多いと思います。
誰しも一定のリスクを背負って運転「業務」を行い、何%かの人は刑事訴追をされ、行政処分を受け、損倍を支払うという落とし穴に落ちます。厳罰化はその頻度を減らすか、多くの人を幸福にするか、を考えてみたいと思っているのです。

コメントを頂いた直後に、飲酒運転に対する厳罰化が本当に、それによる事故や死亡を減らすだろうか、という記事を一つ上げてみました。
http://takenoko-ent.blog.so-net.ne.jp/2008-10-12
自動車交通の世界でも、正確な表現かどうかは何とも言えませんが、社会的ヒューマンエラーの余地を減らす工夫が必要ではないかと考えています。

医療事故においては福島県立大野病院事件の判決で、「他の多くの医師もそうしたであろう医療行為をしなかった」などの明らかな誤った医療を行わない限り業過致死傷罪を問わないという判断が示されました。これを自動車交通と比べると、交通事故における運過致死傷罪成立はずいぶん広く捉えられており、起こした事故の結果が殆ど全て、という状況のように思えるのです。
運転における過失ゼロを目指すには、山本勘助さん同様、「運転をしないこと」になってしまいます。

子供の言い争いに戻って、「わざとやったんじゃないよ、許して」なのか、過失でも「ゴメンで済めば警察はいらない」なのか。私は前者で民事解決がなされるのが理想社会とまだ信じています。夢物語なのでしょうか。

コメントありがとうございます。
by 筍ENT (2008-10-12 17:14) 

鶴亀松五郎

今日のニュース(10月15日づけ)で、千葉県の松戸市立病院の救急部で気管切開中に電気メスを使った際に、引火して患者さんが死亡したそうですね。

病院側は警察に届けて”捜査を警察に任せる”との談話がありました。
共同通信のニュースなので、詳しいことはわかりませんが。

まず、気管内挿管をして人工呼吸器に繋げていたのでしょうか。患者さんは肺炎をこじらせて他院からの転院だそうです。人工呼吸器の患者を転院早々に、いきなり気管切開してしまうことはありませんから何らかのトラブルで、最初の気管内挿管が詰まりかけたので気管切開したのか、すでに前医からの気管内挿管が長期化したので気管切開したのか、文面からは判断が付きかねます。また、どんな状況で電気メスを使ったのかも判りません。

他のドクターの話では気管切開のときに電気メスを使いことはあるそうですが、私は通常のメスを使うだけで、細い静脈からの出血止めに電気メスを使用するのみです。高濃度の酸素に引火してしまったのかもしれません。

不運な偶然が重なってしまって、今回のように患者さんがお亡くなりになったのだと思います。

驚いたのは、病院側が院内の調査委員会を開かず、患者さんに委員会の結論を説明せず、警察の丸投げしているような印象です。

今まで、厚労省や他の医療職も交えた、なんのための医療安全委員会の議論なのか。警察の介入を抑制するための議論ではなかったのですか?それを、警察に丸投げなんて。この病院はどうかしてます。
まず、外部の医療安全の専門家も交えて、状況を科学的に分析して、結論を出して、患者側に伝えるのが先決でしょう。

ただし、情報が少なすぎて、病院側の対応が、どうであったのか、決めてかかるのは早計かもしれませんが。

もっとも、なんでもかんでも警察に届けるべきとした、これまでの厚労省の通達の存在が元凶ですが。

by 鶴亀松五郎 (2008-10-16 00:37) 

筍ENT

鶴亀先生、ご訪問ありがとうございます。

実はこの松戸市立病院の挿管チューブ発火事故については記事を書き置いてあり、まだアップしていませんでした。たった今少し修正を加えて記事にしましたので、お時間のある時にご覧下さい↓
http://takenoko-ent.blog.so-net.ne.jp/2008-10-16
鶴亀先生のご指摘の切り口では考えていませんでした。特に法医の立場などから、警察への届出を極力広く取ろうという動きがあり、厚労省のガイドラインもそれに沿ったものになっていたということですね。

松戸市立病院はご指摘のように院内調査委員会を設置せず、警察に丸投げの形を取ってしまいました。
ただ、関係者の心情を汲めば、この“異状死”を警察に届けずにおいて、後から何らかのお咎めがあってはたまらない、ということから届出となったのでしょう。
しかし鶴亀先生のご指摘通り、並行して院内での調査委員会を設置、自らも動くべきですね。今からでも遅くないから検討して欲しいものです。

私の記事に挙げたように、現行法下で最終的に業過致死罪が成立するか否かは、過去の事例とその周知に基づくと思われます。でも刑事立件→有罪はあまりに医療者側に酷ではないかと考えています。

コメントありがとうございます。
by 筍ENT (2008-10-16 21:50) 

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