SSブログ

後発品名と誤投薬 [医療事故]

asahi.com 金木病院で投薬ミス 意識不明後に死亡 /青森

公立金木病院.jpg 五所川原市の公立金木病院で6月下旬、肝硬変の女性入院患者に利尿薬と誤って血糖降下薬が投与され、女性が意識不明に陥り7月上旬に死亡したことがわかった。同病院は投薬ミスと死因との因果関係は特定できない、としている。五所川原署は業務上過失致死の疑いも視野に、遺体を司法解剖し調べている。

 同病院が22日公表した。同病院によると、死亡したのは北津軽郡の女性患者(当時73)。肝硬変で通院していたが、腹水がたまり、6月13日に同病院の内科に入院した。6月22日夜になって容体が急変、意識不明になった。

 女性は低血糖状態で意識障害を起こしたと判明。6月27日午後になって、腹水を尿として出す利尿降圧薬「アルマトール」ではなく、血糖降下薬の「アマリール」が投与されていたことがわかった。いずれも錠剤で、誤った薬は同6月20日夜~22日朝に2錠ずつ4回投与されていた。

アマリール.jpg 医師が書いた薬の処方指示をもとに、事務委託をしている業者からの派遣職員が、薬局に出す処方箋(せん)をパソコンで打ち出す際、薬の名前を誤記しており、医師も看護師も処方箋の内容をチェックしていなかったという。

 同病院は6月27日、事故調査委員会をつくり、翌28日、家族に謝罪、五所川原署に届け出た。その後も治療は続けられたが、女性は7月8日夜に死亡した。「肝硬変による肝不全」が死因とされた。

 8月22日になって、こうした事実を記者会見で公表した小野裕明院長代理は「患者やご家族、社会に対して医療不信をあおる非常に重大なミスだった」と謝罪した。

 死因との因果関係については「肝硬変がかなり進んだ状態で、病態が非常に複雑。病院としては死因の特定は不可能だ」と述べ、県警による司法解剖結果を重視したい、とした。

 また、職員が医師の指示をもとに処方箋をパソコンで打ち出すシステムについて、石戸谷鏡治事務局長は「医師、看護師が確認するが、それがいつの間にか形骸(けいがい)化した」とチェックのない態勢が続いていたことを認め、小野院長代理も「ニアミスが何回かあった」と、処方箋の誤記が何度かあったことを示唆した。

《解説》公立金木病院での投薬ミスは、派遣職員による処方箋(せん)の誤記が原因で起きた。処方箋は医師が自筆するのが原則だが、同病院では医師の仕事が煩雑になるなどとして、05年から指示を受けた職員がパソコンなどを使い処方箋を作成してきた。

 同病院では内科医不足が深刻化し07年1月から9月までの間、救急車受け入れが休止されるなど、医師不足が慢性化しているという。処方箋の職員作成についても「医師数が足りないため、簡易化できるものは簡易化していくという方針できた」(小野裕明院長代理)という。

 だが、県健康福祉部の幹部は「医師不足とはいえ、知識のある医師や看護師のチェックがない、というのは論外だ」と厳しい見方を示している。県は同病院の再発防止策が実行されるかどうかチェックしていく方針だ。

 投薬ミスで亡くなった女性の遺族は22日、朝日新聞社の取材に対し「病院もいろいろ手を尽くしてくれた」と述べた。だが、病院が投薬ミスを認めながら死因との因果関係を「特定できない」とした点について「前の日まで元気だった。誤投薬がなければ、もう少し長く生きられたのではないか」と、やりきれない思いを語っている。
(栗田有宏)


アルマトール.jpgこの事件でいくつか考えておきたい点があります。確かに「アルマトール」を処方すべきところ「アマリール」を処方してしまったのは、何ら患者さんには落ち度もなく、純粋に医療側の責任です。

ただ、もともと肝硬変があり、死因の全てを誤投薬のせいにするのは乱暴な話です。

さて、まず後発品とその命名の問題です。アルマトールは長生堂製薬が販売している後発品です。先発品はファイザーの「アルダクトンA」で一般名は「スピロノラクトン」と言います。先発品名と一般名は比較的有名で、内科医なら殆ど知っているのではないかと思います。一方そのアルマトールという後発品は、この金木病院など、この後発品を採用している医療機関や薬局でないと、医師も薬剤師も知らないと思われます。

このように後発品はその名前の知名度が著しく落ちます。これも薬剤名取り違えの元になり、そう考えてか、最近上市の後発品の名前は、厚労省が縛りをかけたようで、一般名+「メーカー名」となっています。アルマトールも最近発売であれば、スピロノラクトン「長生」となっていたはずです。
既発売の薬についても、その名前を再検討しても良いのではないかと思われます。

先発品同士でも命名には慎重になってもらいたいものがあります。抗生剤のクラリスと抗アレルギー剤のクラリチンはよく似ています。クラリチン発売の時に、名前が変わるかも知れないと言う話がありましたが、結局このままのネーミングとなりました。

もう一点、医療者に結果責任を負わせることについて検討してみたいと思います。
もしアルマトールの代わりにアマリールを投与したことが患者死亡の主因とされれば、医師は業過致死罪に問われてしまうでしょう。しかし、クラリシッドのかわりにクラリチンを投与した場合、おそらく殆どの場合は何も起きず、何の罪に問われることもないでしょう。
為した過失は殆ど同じであるにも関わらず、このような差が発生してしまうのは、法律側の考え方からすれば「当然」ということになるのでしょうけれど、現場の医療者側からみれば納得できることではないように思います。

患者さんの健康被害という点において、殆ど悪影響がなかったインシデントであっても、重大な健康被害をもたらしたアクシデントであっても、大切なことはそれを再発防止に資することであって、アクシデントにおいて過失犯探し、糾弾を真っ先に考えるべきではありません。
nice!(0)  コメント(5)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0

コメント 5

Quri

こんにちは。
 医療の世界の事は一般には実感がないでしょう。しかし先生も指摘されるとおり、多くの人々は(特に運転免許を持っている人は)全くの善意で生活していてもある日突然に刑事被告人になる可能性があるのです。この事を本当に実感して、その上で今のままのルールで良いと皆さんが本当に思っておられるのか不思議に思います。
 現実味のない単なる原理論ですが、たとえば飲酒運転によって年間に1000人の死亡事故があったとします。この全ての倫理的責任は年間に飲酒運転をした全ての人で償うのが本筋でしょう。決して不運にも子供の飛び出しに遭ったドライバーだけが犯罪者ではなく、もちろん検問に引っかかった人だけでもなく、何事も起こらず密かに胸を撫で下した人も全てです。全違反者で割って薄めても決して軽い責任ではないと思いますね。だからこそ社会全体の啓蒙や教育を促すシステムの構築が大切であって、結果が悪かった人を犯罪人にして済むことではありません。たとえば検問で引っかかったドライバーは点数と罰金で終わりではなく、飲酒検問現場でのボランティア義務を課すなどもアイデアかと思います。また反復して違反する者は(たとえ事故とは無縁でも)収監しての教育プログラムを実施するなども必要でしょう。しかしそんな話はあまり聞きませんね。(全車両飲酒検知イグニッションの取り付けは現実的ではないと思いますが/方向が同じでも意見が異います/笑)
 さらに言える事は、飲酒運転の結果が損害につながった人はいわば不運です。不運で済むか!とここに違和感を持つ人は多いと思いますが、それでもあえて言えば、何事もおこらず胸を撫で下した人と比較して不運であっただけだ、と私は思います。人が不運に備えて保険を利用するのは自然です。新築の家を火災保険に入るか、たかを括ってギャンブルに出るか、と同じ事です。「人が亡くなっているのに、保険で払って終わりか!」というのは単なる感情論であると私も思います。
 ま、飲酒運転は明らかに故意の犯罪行為ですが、警察が定義するところの「前方不注意」なんてやつは、絶対したことがない、なんて人はいないでしょう。とすれば、ほとんど全ドライバーが犯罪者予備軍・・・。やっぱり何か変ですよね。

by Quri (2008-11-28 18:45) 

筍ENT

ご訪問ありがとうございます。

私もよく取り上げる自動車事故を例に引いて、わかりやすい考え方をご披露頂きました。大いに賛成です。

後半で示して頂いた「運」「不運」の発想、他の記事で法律に詳しい方から否定されてしまいました。
http://takenoko-ent.blog.so-net.ne.jp/2008-09-06

小学生を轢いてしまったドライバーと、クマを轢いてしまったドライバーの運命の差が納得できない私に、法的な立場からの考え方を示して頂きました。ひとつの視点としては、法に「過失未遂罪」が存在しないことを挙げられていました。

医療事故においては法の立場からの考え方と医療の現場の考え方の齟齬について、小松秀樹氏がたびたび指摘しています。

私は他の記事で書きましたが、業過致死傷罪の立証は「予見可能性」と「回避義務違反」とされることをとらえて、医療も自動車運転も、「その行為が事故を起こす可能性がある」ことを知りながら「その行為」に及んだという点で、既に「回避義務違反」が成立している。従って全ての自動車運転と医療行為における事故は業過致死傷罪に該当することになる。
これを避けるにはクルマに乗らない、医者にならないということになるのではないか、と書きました。

やっぱりおかしいですよね。

一点、私は飲酒運転の厳罰化に大反対を唱え、全車両飲酒検知イグニッションに賛成を唱えています。これこそが、アルコール依存症の人たちなどの存在を見据えた、社会的ヒューマンエラーつぶしであり、これ以上の飲酒運転厳罰化は、なんら事故防止に資することはない、と訴えて来ました。いかがでしょうか‥。

コメントありがとうございます。
by 筍ENT (2008-11-28 21:22) 

Quri

こんにちは。
 すこし前の記事でもコメントを確認しておられるのかなあ、と思いつつここに投稿しました。
 ヒューマンエラー防止という言葉は善意の使用者が前提であって、飲酒運転のように大半が故意の犯罪であるものを「自動禁止装置」で対応するのは難しいと思います。トヨタあたりが研究しているようですから全く不可能ではないのでしょうが、モニターとする対象が呼気検知、手のひらの分泌、運転席周りのアルコール濃度、などでは抜け穴が多くてとても使い物にならないでしょう。ドライバーの表情や瞳孔、挙動まで候補に上がっていること自体が不可能の証明のように思えます。これらはせいぜい脇見や居眠り防止のモニターまででしょう。
 車に関してのいわば「ユーザーにネガティブな装置」としては、走行中にTV画面が消える装置、古くは時速110Kmでキンコン鳴る装置、180Kmで燃料カットが働く装置、などがありましたね。大きな声では言えませんが、そのころやんちゃな某若手医師は“納車前に全部はずしておくように”などと業者に注文していました。もし良い装置がうまく開発されても「アングラ外し屋」が横行しそうでもあります。
 「さらに機械が人間を規制すること自体あまり感じよくないですね」と書こうとして、酸素のコックに連動してしか開かない笑気のコックを思い出しました。当初は医師の裁量権を侵害しとる!と感じましたが、古い麻酔器でひやりハットを経験するに至り少し考えが変わった記憶があります。この理由は一応削除。
 というのが全車両飲酒検知イグニッションに関する私の感想です、先生に何か具体的アイデアがあればぜひお聞かせください。


by Quri (2008-12-03 12:14) 

筍ENT

Quri先生たびたびご訪問ありがとうございます。

ユーザーにネガティブな装置、という捉え方が新鮮でした。まったくご指摘の通りで、速度警告、テレビ画像消し、リミッターと同じ発想ですね。
ネガティブな装置はないに超したことはないのですが、ただこれ以上自動車事故の刑事処分の厳罰化をしない、あるいは元に戻してくれる、もっと言えば(確か)イタリア並に民事賠償はあっても、刑事処分はなし、という措置を執ってもらえるなら、ネガティブ装置を受け入れたいと想います。

特にアルコール検知装置を全車装着にすれば、アングラ改造を考えてもきっと9割方の酒気帯び運転は防げるものと思います。
酒気帯び運転のかなりの件数は、ドライバーがアルコール依存症であるという記事を以前にも見つけたことがあるので、これは有効と思います。
アングラ改造が見つかった場合には、そのケースに限り、ドライバーや改造に手を貸した工場などに罰則を設ければよいと思うのです。
細かいことを考察すれば、アルコール検知装置の故障で車が始動できない場合には、JAF等の社員にアルコール検知装置を携行させ、酒気帯びが否定できた場合にのみ、臨時解除するなどの措置も考えてもよいかも知れません。
機械も故障するもの、ではありますが、意志の弱い人が酒気帯び運転してしまうこと、よりは確率が低いと思うのです。

少なくとも飲酒運転厳罰化はもう何にも資するところはないと考えます。こういう方向転換はどうだろうか、と思っております。

コメントありがとうございます。
by 筍ENT (2008-12-03 14:48) 

筍ENT

コメントについて:

コメントをお寄せ頂くと、ブログ主には直ちに、どの記事にどなたからコメントが寄せられたかが通知されます。
どの記事でもひっかかったものがありましたら、どうぞその記事にコメントをお寄せ頂ければ大丈夫です。

よろしくお願い致します。
by 筍ENT (2008-12-03 14:49) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。