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刑事裁判が遺族を不幸にする [医療事故]

毎日新聞 <高専生死亡事故>トラック運転手に逆転有罪 大阪高裁

 奈良県生駒市で00年、バイクで登校中だった市内の奈良工業高専生、児島健仁(けんと)さん(当時18歳)が死亡した交通事故で、業務上過失致死罪に問われた奈良市中山町、トラック運転手、山本克行被告(44)に対し大阪高裁(仲宗根一郎裁判長)は6日、無罪とした奈良地裁判決を破棄し、禁固1年、執行猶予2年(求刑・禁固1年)の逆転有罪判決を言い渡した。
 判決によると、山本被告は00年5月15日午前9時ごろ、右カーブの市道でトラックを時速15キロで運転中、時速23~35キロで走行してきた児島さんのバイクと正面衝突。児島さんは頭などを強く打ち、2週間後に亡くなった。1審判決は「被告が児島さんの車両を発見することは困難」と判断。しかし仲宗根裁判長は「(被告が)直ちに停止すれば児島さんが事故回避措置を取ることも可能で、徐行義務を怠った」と過失を認めた。被告側は上告を検討する。
 事故後、児島さんの母早苗さん(57)は徹底捜査を求める署名活動をし、事故から1年9カ月後に山本被告が起訴された。判決後の記者会見で早苗さんは「1審で息子が暴走する少年のようにとらえられて、たまらなかった」と目に涙を浮かべながら、7年にわたる闘いを語った。【黒岩揺光、阿部亮介】



よくありそうな事故、そして裁判です。不毛です。ひたすら不毛だと思います。

兼ねてより私が一人で主張している、業/運過失致死傷罪の廃止について検討するのに、今回はこのニュース記事を取り上げてみました。

本事故の過失相殺はわかりません。ニュース記事面からはバイクがセンターラインを超えて来たのかそうではないのかなど、判断材料として報道されていないものがあります。
ただ相互の速度を考えると、トラック側の過失が大きいとは思えません。そうだとすれば、トラックの運転手側は刑事事件としては無罪を主張するのは当然です。そもそもこのトラックドライバーを起訴するのが間違っていると思われます。

トラックドライバーが普通の人格を持った人であるという前提ですが、こうした事故が起きた後、当然彼は死亡したライダーの遺族に謝罪し、保険に入っているかどうかわかりませんが、民事的な償いを行うことになります。もちろん誠意がない場合、遺族とのコミュニケーションが取れない場合は、対決はやむを得ませんが。
そして子供を亡くして一番悲しみの底にいる遺族をまだしも一番救い得るのが、こうした事故の相手との対話、そして謝罪だと思うのです。

しかしそのチャンスは絶たれてしまったようです。起訴までにトラックドライバーと遺族の間で対話があったのかどうかはわかりません。検察が起訴し、刑事裁判が始まってしまえば、この時点でトラックドライバーと遺族との意思疎通は絶たれてしまいます。謝罪したくても、法廷以外で顔を合わせることはなくなると思われ、それも叶いません。

ひとたび刑事裁判になれば、弁護士もつき、無罪を主張して戦うことになります。被告人の当然の権利です。その過程において、ライダーの走りに問題がなかったかどうかも指摘されます。法廷では検察対被告人の対決となりますが、被告人の弁護が不本意にも遺族を傷つけることになりかねません。

遺族のコメント「1審で息子が暴走する少年のようにとらえられて、たまらなかった」というのは、これを如実に表していると思います。

こうしてみると遺族を傷つけ、必要以上に悲しみを与えたのはこの刑事裁判ということになります。刑事裁判でトラックドライバーを有罪にしてみたところで、遺族はどう救われたのでしょうか。
最初から刑事裁判などするべきではないと思うのです。

医療事故の事後処理の方が少しずつですが進歩して来ました。
医療事故は医療者と患者の準委任契約と考えられ、その債務不履行または不法行為として取り扱われます。そして、先にも引用を含めて取り上げましたが、虎ノ門病院泌尿器科・小松秀樹医師によれば、この不法行為は警察・検察がその気になれば全て業過致死傷罪として立件できてしまうことになります。
医療崩壊をくい止める動きが少しずつ出て来て、第三者機関による調査、裁判外解決などが少しずつ進んでいます。医療事故にあった患者や遺族もそうした解決の方が救われるのです。

自動車事故は突発的に起こるもので、事故当事者間に何の契約もなく、医療事故と同列に論じることはできません。しかし、被害者・遺族を少しでも救済するのに、加害者の刑事立件は何の役にも立たないと信じます。
刑事介入を排除し、さらに民事においても当事者間の対話が可能な、裁判外解決を進めるべきではないかと思うのです。裁判は対決になります。決して対話にはなりません。

加害者の運転に問題があるのなら、それに対するペナルティは行政処分の範疇で為されるべきと思います。

それでも業過致死傷罪・自動車運転過失致死傷罪は必要でしょうか。行政処分では不十分でしょうか。


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yokohamachuo

おっしゃる通り、この手の事案は本当に不毛です。

私は先月(8月29日)、横浜地裁で業務上過失致死事件を傍聴しましたが、判決公判で裁判官が「被害者の運転の仕方も問題があった事案です」と言っておきながら、被告に対し禁固1年・執行猶予3年の有罪判決が言い渡されました。渋滞中の自動車専用道路(保土ヶ谷バイパス)で、車の間をすり抜けて走ってきたバイクの進路を妨害し、一部に接触した、というだけなのにも拘らずです。

ただ、こうした事案を起訴に持ち込む検察側としては、「遺族側の強い意向(処罰感情)に配慮している」という側面もあるようです。しかし、民事で解決出来るものをわざわざ刑事事件にして事件とは無関係な被告の家族をも不幸のどん底に突き落とす、というやり方が果たして社会の利益になるのかどうか、私には疑問でなりません。
by yokohamachuo (2007-09-03 01:04) 

筍ENT

コメント有り難うございます。興味深い横浜地裁の事案についいてもご紹介ありがとうございます。
私もバイクに乗るとすり抜けをするし、四輪に乗る時に果たして後ろから接近するバイクに100%いつも注意していられるかどうか、自信がありません。私も運過致死傷罪に問われる危険をいつも背負っていることになります。

ご指摘の通り、遺族側の強い意向、というのが一番検察を動かしているのでしょうね。家族を失った怒りが、事故の相手側に向かうのは自然ではあります。しかし、それを民事、できれば裁判外で解決できれば、それが原告・被告双方にとって一番と信じます。
by 筍ENT (2007-09-03 14:33) 

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