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産経新聞の「玄」さんへ~応報主義促進はおやめください [医療事故]

産経新聞 【Re:社会部】頂いた2枚の写真

クライマーズハイ.jpg 事件や事故で亡くなった方の顔写真を入手することは最も辛い仕事です。遺族の心の傷に塩を塗るような気になります。小説「クライマーズハイ」でご存じの方も多いと思います。

 栃木にいたころ、2歳の男の子が中学校のプールに落ちて亡くなりました。現場に行ってみると、藻でびっしりのプールの底が1カ所白くなっています。警察官が「坊や、びっくりして足でもがいたんだね」と教えてくれました。

 自宅にうかがいました。和室に坊やの遺体が横たえられていました。声をかけたら起き上がりそうです。小さな小さな、ボールくらいのかわいい顔でした。1歳になった私の長男に似ていました。

 両親も祖母も自分を責めていました。朝食の準備中にいなくなったこと、坊やは水が大好きだったことを話してくれました。家のそばの中学校の植栽のすき間から中に入り、プールをのぞいたときに落ちてしまったようです。プールの底の白い跡が目に浮かびました。「苦しかったね。かわいそうに…」。坊やの顔をのぞき込んで、号泣してしまいました。プールに自由に入れる状態にしていた中学校にも責任があるのでは、とも感じ、そう書きました。

 写真を2枚頂きました。1枚は新聞掲載後、返しました。もう1枚は頂いて、アルバムの長男の写真の隣に張りました。坊やの笑顔は今も生き続けています。(玄)


プール.jpg「玄」さんの書かれた記事、多くの人は共感するでしょう。私もわかります。特に幼い子を亡くした遺族のつらさは、この上ない苦しみ・悲しみでしょう。そして、この「玄」さんも、自分に1歳の長男がおありで、もしも自分の子が‥などと想像してみたら、取材した遺族の方たちに対して大いに感情移入してしまったことでしょう。自分にとって現実ではないにせよ、遺族の方の気持ちをいっとき共有することができたに違いありません。

上記の記事の1~3段落、5段落目は賛成できます。マスコミに遺族の心を救えるような力があるかどうかは難しいところですが、少なくとも記者の一人として、遺族の気持ちを共感できた、そういう記事は読者の共感をも得ることと思います。

しかし、私が許せないのが第4段落です。感情移入のあまり、玄さんは冷静さをすっかり失ってしまったようです。
かわいい子供を亡くした遺族の悲しみは、一度は誰かへの怒りというエネルギーを持ちます。怒りを誰にもぶつけることができないとやるせない気持ちながら、怒りは自分に向かったり、遺族同士に向かったりしながら、段々消えて行くことと思います。
ここで、事故に関与した人間が存在すると困ったことになります。中学校のプールには、植栽の隙間から入ることが出来てしまった。そしてプールに転落して不幸な運命となってしまった。プールに小さな子供が入れるような状況を放置したヤツは誰だ。許せない。そして怒りはその中学校の管理者に向かいます。校長か、学校設置者か、誰かの襟首を掴んで怒りをぶつけずにはおられない。おまえのせいで私のかわいい子供は命を落としたんだ。

感情的にはわかります。私だってそういう気持ちになったかも知れません。
でも玄さん、ここでは一度冷静に記者の立場に立ち返って欲しかったのです。一緒に中学校の管理者を糾弾するのは間違っています。

事故に遭ってしまったのは2歳の子供です。目を離したらどこに行ってしまったかわかりません。プールの敷地に入って行かなくても、今度は道路に飛び出して車にはねられたかも知れません。鉄道が近ければ線路に立ち入ってしまったかも知れません。この遺族の方達を糾弾するつもりはありませんが、目を離してしまった保護者の責任はどうなのでしょう。そういう議論はすっかり抜け落ちています。

玄さんには記者として、この先は客観的に記事を書いて頂きたかったと思います。以前にも取り上げたことがありますが、子供の事故をデータベース化して、再発を防ぐのに資することを目的としている団体もあるようです。またこの事例をマスコミが取り上げることで、本当にプールを柵などで囲う必要があるというコンセンサスが得られたら、行政に働きかけるべきでしょう。

遺族の方達への感情移入が抜けぬまま、単純に中学校管理者に責任を問おうとする記事を書いたのなら、玄さん、あなたは記者としての視点を失っています。

今まで多くのニュース記事で見て来たように、この中学校の校長、または市町村の教育委員会や首長などを、業過致死罪で警察に訴え有罪を取ったら、果たして子供を失った心は救われるのでしょうか。そしてその学校や設置者、地域にとって何か良いことがあるのでしょうか。
ここまで考えたら、その不毛さに気づいて、違う記事の書き方をして欲しかったのです。

玄さんのような記事は今までも取り上げて来ました。福岡の飲酒運転死亡事故をはじめ、被害者側の感情をことさらに強調して、本来冷静・中立的であるべき刑事罰を厳罰化の方向にねじ曲げようとする動きが目につきます。

どうか刑事と民事をきちんと区別して。そしてそれ以前に、一人の人間として感情の赴くままに筆を走らせることと、記者として紙面に載せる記事を書くこととは、分けて考えて欲しいと願うのです。
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司法が精神医学を書き換えた? 2 [医療事故]

共同通信 人格否定でPTSD再発 精神科医発言に賠償命令

関東中央病院.jpg 関東中央病院(東京)の精神科で人格を否定されるなどして、心的外傷後ストレス障害(PTSD)になったとして、東京都の女性が病院を開設する「公立学校共済組合」に約700万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は14日、請求棄却の1審判決を変更し、約200万円の賠償を命じた。

 富越和厚裁判長は「女性はストーカー被害に遭ったことがあり、PTSD再発の可能性があった。医師は人格障害と短絡的に診断し、人格を否定する発言で再外傷体験を与えた」と判断した。

 判決によると、同病院精神科の男性医師は2004年1月、女性の診察で一方的に「あなたは普通じゃない」などと拒絶的に激しい発言をして「境界性人格障害」と病名を告知。女性は診察後、PTSDを発症した。

 5月の1審東京地裁判決は「医師の人格障害という判断に誤りはなく、発言が違法と言えるほど威圧的で人格を否定するものだったか明らかではない」としていた。


境界性人格障害.jpg以前、「司法が精神医学を書き換えた?」と題して、いじめが統合失調症を引き起こしたという判決を取り上げました。

精神医学は身体医学と異なり、目に見えない精神疾患に色々なアプローチを行い、疾患の解明に挑み、また精神療法・薬物療法などで患者と向かい合って行く領域の医学と言って良いでしょう。

先の記事では、医学書にも書いてない、いじめと統合失調症の関係を判決が認めたことに驚いて取り上げました。そして今回の記事では、高裁の判決は、最初から医療者の有責ありき、の姿勢で、「境界性人格障害」の病名告知とPTSD発症の因果関係を認めてしまいました。もっと言えば、判決が患者の症状をPTSDと「診断」してしまったように見えます。

身体医学ではさすがにその「プロ」をさしおいて医療内容に口出しすることは控えている司直が、精神医学領域ではかなり大胆な判断を打ち出して来ています。
このニュース記事の症例で、記事では明らかにされていませんが、女性のPTSDとされる症状は本当にそう診断されて良いのでしょうか。そもそも対人関係の異常・未熟が言われている境界性人格障害の症状そのものとも考えられないでしょうか。
私は精神医学に詳しくありませんが、この対人関係異常は主治医との間にも現れるとされます。例えば精神科外来で通院を重ねて、人間関係としての距離が縮まって来ると、ある日突然患者が主治医に向かって暴言を吐いたりものを投げつけたりすることがあると聞きます。相手の評価が両極端に入れ替わるのが特徴とされます。

そもそも提訴したこと事態が境界性人格障害の一症状と考えられなくもないと思います。訴訟を持ち込まれた裁判所も困るとは思いますが、精神医学の教科書を書き換えかねない判決を安易に出して欲しくないと考えます。
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ミスと罰 [医療事故]

毎日新聞 <JR東海>速度超過隠す? 運転士処分検討

大高.jpg JR東海の20歳代の男性運転士が今月2日、速度超過の運転ミスをした後、運転室内から運転状況を記録したICカードを抜き取っていたことが9日分かった。同社はミスを隠そうとした可能性があるとして、処分も検討している。

 同社によると、運転士は名古屋発武豊行き快速列車に乗務し、2日午後4時過ぎ、武豊線石浜駅(愛知県東浦町)に停車する際、約40メートル手前に止まるミスを犯した。運転士は事実関係を同社に報告。ICカードを調べたところ、共和駅(同県大府市)より手前の運転記録がなかったため、運転士に確認すると、東海道線大高-共和駅間で制限速度120キロの区間を6キロ超過運転し、その後、共和駅でICカードを抜き取ったことを認めた。

 同社は「ミスの報告は大原則。再発防止のため、すべての乗務員に注意を促した」と話している。【浜名晋一】


自動車における飲酒運転事故、轢き逃げと同じ構造なのではないかと思い取り上げました。
飲酒運転事故と違って、重大な結果を招いてしまった訳ではありませんが、その後のペナルティを恐れて咄嗟に隠蔽・逃亡を図ってしまったのではないかと想像します。

武豊線石浜駅.jpg自動車飲酒運転についても、厳罰化は誤った方向であり、被害者救護に何らかのインセンティブを付加して、ドライバーをそう仕向ける方が、轢き逃げを減らし被害者救命の可能性を高めるはずだと主張して来ました。
本ニュース記事で、運転士が運転記録を隠蔽しようとしたと言うことは、この速度違反運転に対し過重なペナルティが課されていたのではないかと想像します。本当の注意、教育、再発防止であれば良いのですが、JR西日本であったような日勤教育や、場合によってリストラの口実にされてしまったりするのではないかと懸念します。

危険を伴う業務にあって、ミスに対して厳罰を用意しておくことは、ミスの誘発を決して防止しません。隠蔽や逃亡を招くだけです。これは医療、あらゆる交通、その他の業務に共通して言えることだと思います。
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タトゥー [医療事故]

北國新聞 ◎「タトゥー取って」急増 病院に駆け込む若者 就職、結婚に不都合、公衆浴場入れず… /石川

大塚美容外科.jpg 一度入れたタトゥー(入れ墨)を取りたいと訴えて県内の形成外科医院などを訪れる若者が急増している。ファッション感覚で入れる一方で、公衆浴場に入れなかったり、就職や結婚で不都合が生じるケースもあるためで、医療関係者は「入れるのは簡単だが、元に戻すには相当の費用と手間が掛かる。安易に入れるのは避けてほしい」と呼び掛けている。
 医療関係者によると、タトゥーは大きさや施術時間によって価格が変わるものの、数千円から数万円と比較的手ごろで、自分の好みに合わせてデザインを考えることができる。このため、若者の間で人気が高まり、県内でもタトゥーを扱う店が増えている。

 金沢市中心部の形成外科医院では、ここ数年でタトゥー除去のため訪れる人が急増。年間十人以上が相談に訪れ、性別を問わず十―二十代の若者が多いそうだ。

 同医院によると、タトゥー除去の理由は、「今の自分に合わなくなった」などファッションに関するものから、「就職活動に差し支える」「近く結婚するから」といった社会生活での支障までさまざまだ。

ひがしやまクリニック.jpg 中には、暴力団関係者と同一視されて温泉や遊園地、ゴルフ場などへの入場を断られるケースもあるという。同医院の男性院長は「社会通念上、なかなか社会には受け入れられにくい」と指摘する。

 また、タトゥーの除去はレーザー治療と切除術があり、施術費用は数十万円―数百万円と高額。費用が払えないといって就職や結婚ができずに悩む人も多いという。男性院長は「人生設計に狂いが生じることもありうるので、入れる前によく考えた方がいい」と注意を促している。


入れ墨などをするのは、極道の方たちだけかと思っていたら、昨今はそうでない人まで気軽にタtゥーを入れているようで、ちょっとびっくりしていました。皮膚に貼り付ける、タトゥー風シールでも使っているのなら良いのですが、そうでないとニュース記事のように大変なことになるのは想像に難くありません。

タトゥー消し.jpg左の写真では大変きれいに入れ墨を除去出来たケースを撮影していますが、きっとそううまく行く例は稀ではないかと思います。

発展途上国の文化を否定するつもりはありませんが、身体に治療行為以外の侵襲を加える行為はおよそ愚かであると考えます。軽いものではピアスなどもそのように思えます。

いずれにせよタトゥーはもとより、侵襲の加わった部位を前の状態にまで完全に戻すのはきっと大変な作業であり、保険診療でないとすれば、結果に不満を持ち、医師を糾弾しようとする患者が出てくることと思います。
自らの為した愚行を棚に上げて、キズが元に戻らないからと言って、形成外科医を訴えたりは決してしないで欲しいと思います。
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ヒューマンエラーを罰すること [医療事故]

読売新聞 注入食誤って静脈に、87歳男性死亡…大阪で准看護師ミス

友紘会総合病院.jpg 大阪府茨木市の友紘会総合病院(林豊行院長、292床)で、同府箕面市内の男性患者(87)がチューブで胃に直接入れる液体状の注入食を誤って静脈に入れられ、副作用で死亡していたことが5日、わかった。

 担当の女性准看護師(45)が「忙しくて間違ったことに気付かなかった」とミスを認めており、茨木署は業務上過失致死容疑で捜査している。

 発表によると、准看護師は2日午後4時頃、注入食の袋(250ミリ・リットル)から出ているチューブを、点滴チューブの途中に付けてあった薬剤投与のための接続器具に誤って挿入したという。

 約30分後、別の女性准看護師がミスに気付き、主治医の斉藤裕之副院長(51)が救命治療したが、約1時間半後に死亡した。

経管栄養.jpg 病院側は同日、遺族に説明し、同署に通報。司法解剖で5日、死因は誤投与による副作用と判明した。

 斉藤副院長は「患者とご家族に迷惑をかけ、社会をお騒がせしたことを申し訳なく思っている」と謝罪した。


消化管に注入すべき栄養剤を血管に入れてしまうと、このような重大な結果を招きます。逆はあまり健康被害を惹起することはなさそうですが、化学的組成、無菌でなければならない、静脈注射用の液剤の代わりに栄養剤を血管に入れてしまうことは大変危険です。

こういうことはある程度慣れた医療者‥医師や看護師であれば、当たり前のこととして認識されますが、まだ臨床の現場に出て来たばかりのスタッフに取っては、必ずしもまだ常識として定着していない可能性はあります。あるいは投与すべき液体が経静脈輸液剤なのか、経管栄養剤なのか、新人にはわからなくても無理からぬこともあり得ます。

だからこの原因となった誤投与の准看護師を罰する、ということでは何も変わりません。病院の医療安全の進歩には何ら資するところがないのです。

中心静脈栄養.jpg健康被害を被ったこの患者さんに対して民事的補償をすべきなのは言うまでもありません。
しかしこの准看護師に対して業過致死罪容疑で警察がうろうろすることは何の役にも立ちません。この誤投与の責任を個人に押しつけ、以て一件落着としようとするのは明らかに間違っています。

人間は必ずミスを犯します。従ってそれを見越してそのミスが重大な結果をもたらさないように安全システムを構築する必要があります。
麻酔用ガスの誤接続防止のために、酸素と笑気のボンベと管が誤ってつながらないようにされています。同様に静脈注入用チューブと経管栄養用チューブの径をはっきり変えるなどして誤接続が起きないようにするべきです。

この准看護師を罰金刑にしても、禁固刑にしても、事後の医療安全に資することは何もありません。
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喉頭蓋炎 [医療事故]

毎日新聞 横浜市救急医療センター医療過誤:元患者が逆転敗訴--東京高裁 /神奈川

横浜市救急医療センター.jpg 横浜市救急医療センター(横浜市中区)を受診後、急性喉頭蓋(こうとうがい)炎を発症し後遺症で両手足がまひした市内の少年(14)と両親が、市側に賠償を求めた訴訟の控訴審で、東京高裁は26日、1審・横浜地裁判決(05年9月)を取り消し、少年側逆転敗訴を言い渡した。南敏文裁判長は「特徴的な症状が現れておらず、発症の可能性を疑って診察すべきだったとはいえない」と判断した。

 判決によると、99年3月、当時4歳の少年は高熱とのどの苦しさなどを訴え受診。帰宅後、舌の奧にある喉頭蓋が腫れて気管などがふさがる急性喉頭蓋炎から低酸素脳症を患い、まひが残った。

 1審は「急性喉頭蓋炎の疑いを全く持たず漫然と帰宅させた」と担当医の過失を認め、約1億500万円の賠償などを命じていた。【銭場裕司】

 ◇畑沢健一・市医療政策課長の話
 市の主張が認められたと考える。


急性喉頭蓋炎.jpg「喉頭蓋」は気管を閉じる蓋です。自分の唾液や食べ物、水分を飲み込む時に、それが気管に流れ込まないようにしている、文字通りの蓋です。
これが時に炎症を起こしたり、膿を持って腫れ上がってしまうことがあり、急性喉頭害炎と呼ばれます。

この喉頭蓋は口を開けただけでは見えません。耳鼻咽喉科医が鏡を使ったり、ファイバースコープを使って初めて見える場所にあります。耳鼻咽喉科医以外には通常見えないし、それを要求するのは無理があります。

耳鼻咽喉科の学会でも急性喉頭害炎についての情報を集めていますが、そんなに多い疾患ではありません。これを他科医が常に念頭において疑う、というのは現実には困難です。増してある程度進行して典型的な症状を惹き起こさない限り、喉頭蓋を見ない他科医には診断は無理です。

今までニュース記事になっていないものも含めて急性喉頭害炎の事例を見聞きする機会がありましたが、一部の民事裁判で医療者側有責とされたものがあった程度でした。内科なども喉頭害炎に関して注意を払おうと、雑誌などに掲載はしています。

しかしいずれにしても診断の難しいこうした疾患を初診時正しい診断に至らなかったからと言って医師側有責とし全責任を押しつけるのは正義ではないと思います。
こうした事例をみると、産科領域で始まった無過失補償システムを広く作ることを考えても良いのではないかと考えます。

そして最後に毎日新聞に苦言を呈したいと思います。二審で患者敗訴となったにもかかわらず、医療「過誤」と書き立てています。今回の問題も事故ではあっても過誤ではないと考えます。
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業過致死罪起訴の見送り [医療事故]

毎日新聞 県立安芸病院の医療死亡事故:医師、不起訴に 「遺族の思い考慮」--地検 /高知

高知県立安芸病院.jpg ◇入院男性へ投薬ミス
 県立安芸病院に入院中の男性(当時69歳)が投薬ミスで死亡した事故で、高知地検は26日、業務上過失致死容疑で書類送検された男性医師(38)を不起訴処分とした。

 同地検は「被害者の特定になり、公表を望まない遺族の要望に反することになる」と処分理由を明らかにしなかった。

 地検などによると、男性医師は05年2月、看護師への投薬指示を間違ったため、誤った薬剤を投与し、男性を死亡させたとして、07年11月に同容疑で高知地検へ書類送検されていた。地検の調べに対し、医師は「薬剤の誤投与は確かだが、死亡との因果関係はない」と話したという。

 事故を巡っては、県と遺族の間で損害賠償金2700万円を支払う示談が成立している。【近藤諭】


塩化カリウム.jpg医師を不起訴にしたことは賛成です。しかし理由には納得できません。
この事故では、塩化ナトリウムを投与するべくオーダリングシステムに入力する際、誤って塩化カリウムが入力され、投与されてしまったと言うことです。塩化カリウムは投与量が多ければ心停止にも至る危険のある薬剤です。

確かに人為ミスではありますが、致死の危険のある薬剤が簡単にオーダーできてしまうシステムのシステムエラーであることは間違いありません。人はエラーをおこすもの。そのエラーをシステムで食い止めなければなりません。
例えば端末画面上で、これは投与量をこのくらいにしないと死亡の危険があります、くらいの警告を発するようにすべきでしょう。

こうしたシステムエラーつぶしを考えて行くべきであり、この医師に刑事罰を与えてみたところで、何ら再発防止に役立たない、というのが本来の考え方です。
従って民事上は有責であっても、医師の刑事訴追はしない、という理由づけであれば、不起訴処分について検察の見識を讃えるべきところでした。

しかしあろうことか、「被害者の特定になり、公表を望まない遺族の要望に反することになる」ために不起訴なのだというのです。同じように傷害や殺人事件でも遺族の要望があれば、不起訴にするとでも言うのでしょうか。

こういうことで起訴・不起訴を決めるのは誤っていると思います。
あくまでもエラーはその後の再発防止に資するようにすべきであって、個人の糾弾、断罪は結果何にも資することがないことを考えて、不起訴として欲しいと願っています。
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医療「事故」をどうしても「過誤」にしたい人たち [医療事故]

千葉日報 院長の不起訴は不当 千葉第一検察審査会が議決

インプラント.jpg 八千代市の民間歯科医院で二〇〇四年、インプラント手術を受けた七十代の女性にけがを負わせる医療事故を起こしたとして、送検された歯科医師の院長男性を、千葉地検が不起訴処分としたことに対し、千葉第一検察審査会は二十五日までに、不起訴不当の議決をした。

 議決書などによると、女性は〇四年五月二十四日午後零時半から同一時半ごろまで、同医院で人工の歯根を埋め義歯を作るインプラント手術を受けた際、左下歯槽神経を損傷した。院長が患者に対する安全確保と業務上の注意義務を怠ったとして、業務上過失傷害罪に問われたが、地検は今年三月三十一日付で不起訴とした。

 同審査会は議決書で「安全領域に余裕を持って実施する手術計画を立てるべきであったが、それを怠ったために起きた事故」と指摘。「業務上の注意義務に違反したと認めるのは困難である」とする地検の処分理由は不当だとした。


千葉地検.jpg医療事故において、医療者を業過致死傷罪に問うことを断念した検察に対し、検察審査会が起訴をせまった事例を今まで2つ挙げて来ました。

一つはさいたまの歯科での局所麻酔薬によるショック死亡事例、もう一つは奈良産科死亡事例で、執拗にこれらの医療者に刑事罰を与えようとしたがる検察審査会に嫌悪感を抱いていると書きました。
さらに交通事故事例で、運転手のてんかん発作が疑われて不起訴としたのに対し起訴を迫った審査会の例も取り上げました。

被害者感情、死亡事例にあっては遺族感情が、とりあえず医療者に向くことはわかります。これに関しては医療者と患者がいかに良い関係を築くかという大切な問題をはらんでいます。
しかし不幸にして良好な医療者・患者関係が構築できていないうちに起きたこうした事故に関して、ひとまず紛争が起きてしまうことは仕方がないとしましょう。やはりこれに対しては民事的な解決を図るべきで、できれば裁判外解決が望まれますが、やむを得ず民事裁判となることがあっても仕方がありません。

しかし、“外野”である検察審査会の人たち、あなたたちはいったい医療者に何の恨みがあるのでしょうか。本記事の歯科医師を刑事訴追させて有罪にしてそんなに嬉しいですか。

本記事の内容に触れてみます。歯科学は自分の経験に基づく話ではありませんが、伝達麻酔、インプラント、抜歯、下顎骨の手術に伴って、下歯槽神経損傷はどうしてもある一定の確率で起きてしまうとされます。一方、神経の完全断裂でも再生を期待することもできると言われています。

産科での死亡事故で、医師を有罪にしたがっていた奈良地検審査会の人たちには、県内の産科の受診や分娩をおやめ頂くよう、自宅分娩でもして頂くように、本ブログ記事上お願いしました。

ここで改めてお願いします。この記事の歯科医を有罪にしたくて仕方がない千葉第一検察審査会の皆様、決して今後、特にエリア内の歯科を受診されませんよう。一定の確率で起きてしまう不利益な事態に対して、全て歯科医の責任として刑事訴追をしたいような人に、歯科を受診して頂きたくありません。なあに虫歯でそう簡単に死んだりしません。歯科にかかろうなどと思うのはおやめなさい。

私はあなたたちを軽蔑しています。
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泌尿器科医療崩壊 [医療事故]

共同通信 誤診の腎摘出訴訟で和解 佐賀県立病院が1千万賠償

佐賀県立病院好正館.JPG 佐賀県立病院好生館(佐賀市)で良性腫瘍(しゅよう)を悪性と誤診し右の腎臓を摘出されたとして、同市の女性が約2300万円の損害賠償を求めた訴訟は24日、病院側が過失を認めて1000万円を支払うことで佐賀地裁(神山隆一(かみやま・りゅういち)裁判長)で和解が成立した。

 和解を踏まえ、女性は「医療に携わる人は高い専門知識やモラルを持ってほしい」と話した。

 訴状によると、女性は2001年5月にミニバイクで事故に遭い、同院に搬送された。その際の検査で右の腎臓にがんの疑いがあると診断され、同年7月に手術で摘出。術後の病理検査で腫瘍は良性だったことが判明したという。


佐賀地裁.jpg以前にも乳癌の診断で手術を行ったところ、良性であったという症例で病院側が損倍を支払ったという事件がありました。
本ニュース記事とともに、これらはまさに結果責任主義と言って良いのではないでしょうか。

泌尿器科学には暗いのですが、少し調べてみると、腎癌の診断は確実なものはなく、また確実な治療は腎全摘であるとされます。
すなわち、腎生検は腫瘍への命中が難しいとともに、生検の針穴に沿って腫瘍が広がる危険があるとされます。また腫瘍を安全域を含めて摘出しても、衛星腫瘍が育つという危険があると言われています。

従って、画像診断などで腎癌を疑ったら、患者さんの生命を第1に考えるのなら腎摘出、その後に病理検査ということになります。

その病理検査で結果的に良性腫瘍だったと言って医師を責め立てていたら、腎癌治療をする泌尿器科医はいなくなります。逆に良性と判断して腎癌が手遅れになったら、これまた訴えられることでしょう。

こんなトンデモ和解に応じてはいけなかったのではないでしょうか。早期解決を願うばかり、つい病院も和解に応じてしまうのでしょうけれど、悪しき前例を残すことになります。

原告側の「高い専門知識やモラルを持ってほしい」という発言は許せません。
高い専門知識があるからこそ、この原告の命を奪う可能性のあった腎臓を取ろうと決め、誤りのない方針で手術に臨んだ訳です。モラルがないのはどちらなのか、よく考えて欲しいと思います。原告自身か、例によって提訴をそそのかした悪徳弁護士か、これ以上不条理な和解例・判例を増やして欲しくありません。
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地域医療とくも膜下出血診断 [医療事故]

河北新報 「誤診が原因」くも膜下出血なのに「急性アル中」

公立黒川病院.jpg 宮城県大和町の公立黒川病院がくも膜下出血を急性アルコール中毒と誤診したため夫=当時(47)=が死亡したと、仙台市泉区の妻ら遺族3人が19日、病院を運営する社団法人地域医療振興協会(東京)に計約8550万円の損害賠償を求める訴えを仙台地裁に起こした。

 訴えによると、夫は今年1月31日夜、宮城県富谷町の飲食店で、妻や会社の同僚らとジョッキ2杯のビールと焼酎1杯を飲み、店で急に意識を失って公立黒川病院に運ばれた。毎晩の飲酒量とほぼ同じだったが、同病院の医師は急性アルコール中毒と診断した。

 ふだんと様子が違うことを不審に思った同僚らの求めで、医師はコンピューター断層撮影(CT)で検査したが、画像から別の病因を判読しなかった。翌2月1日未明、夫の呼吸が停止し、転院搬送された宮城野区の病院でのCT検査でくも膜下出血と診断された。夫は6日後に死亡した。

 遺族側は「くも膜下出血が疑われる状況だったのに、医師は急性アルコール中毒と誤診し、CT検査でも見落とした過失がある」と主張。黒川病院は「訴状を見ておらず、現段階ではコメントできない」と話している。


地域医療振興協会.jpgまたも結果責任をかざした訴訟です。夜間の急患でくも膜下出血の診断に至らず死亡した事案で、死亡の責任は全て初診の医師と病院であるという趣旨の提訴です。

今までも繰り返し書いて来たように、病気の原因は患者さんに内在したもの、または外因によるものです。医師が患者につかみかかって傷害事件をおこした訳ではありません。
このくも膜下出血では、おそらく患者さんがかねてから持っていた、脳動脈瘤か、脳動静脈奇形が破裂して出血したものです。その引き金になったのが飲酒と考えられますが、それを救命出来なかった医師になんと8,550万円支払えというものです。

これを正義として良いのでしょうか。

さらに、地域医療振興協会は、自治医大卒業生など僻地医療システムを改善して行こうという医師たちによって設立されたもので、医療に恵まれない山間僻地を中心に病院運営を行って行こうという組織です。
都市にいる医師をプールし、交代で派遣させるなど、僻地医療を振興して行こうという活動を行っています。

もしこうした協会がなければ、そもそもCTを備えた病院は運営できておらず、もっと患者さん達の診断には時間がかかった可能性があります。

ともかく病院にかかったら100%助かる、そして病院はそこに当然のようにある。医療を受ける側の当然の権利である。‥そう思われているのではないでしょうか。こうした医療体制を構築するのに汗をかいた医師達に、ちょっとでいいから思いを馳せて欲しいと思うのです。
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