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ねたみと過失の罰 [診療]

時事通信 ねたみの脳内メカニズム解明=他人の不幸喜ぶ感情と関連-放医研など

fMRI.jpg ねたみや他人の不幸を喜ぶ感情に関する脳の働きを、放射線医学総合研究所(千葉市)などの研究チームが明らかにした。ねたみは脳内の「痛み」に関する部位が働き、ねたむ相手の不幸で「報酬」にかかわる部位が活動していた。13日付の米科学誌サイエンスに発表した。
 被験者は健康な大学生19人。学業成績や就職先、所有する車など、平均的な大学生を主人公(被験者自身)とし、進路や興味分野が主人公と同じで成績などが優秀な同性A、分野が異なり優秀な異性B、分野が異なり平均的な異性C-の3人の大学生が登場するシナリオを読ませた。
 自己評価によるねたみの程度は、学生Aに対して最も強く、Bにはその半分程度。Cに対してはほぼなかった。脳の活動を機能的磁気共鳴画像診断装置(fMRI)で調べたところ、ねたみを感じる時、身体的痛みの処理にかかわる「前部帯状回」という部位が活動しており、ねたみが強いほど活動が高かった。
 次に、学生AとCに食中毒や車のトラブルなど不幸な出来事が起きるシナリオを示し、うれしい気持ちの程度を自己評価してもらった。Aに対しては中程度感じ、Cには全く感じなかった。fMRIでは、Aの不幸に対し報酬系として知られる「線条体」という部位が活動しており、喜びが強いほど活動が高かった。
 さらに、ねたみに関する前部帯状回の活動が高い人ほど、他人の不幸を喜ぶ線条体の活動が高いという関連も分かった。


帯状回.jpgまず動物行動科学から言えば、大変利にかなった脳の動きと言えるでしょう。動物行動科学を系統的に勉強したことはありませんが、雄・雌ともに自らの遺伝子のコピーを多く残すことを至上の目的とする有性動物にあって、人間もその例外ではないというものです。
自らより優れた存在である同性は、自らの遺伝子コピー作成に邪魔な存在になります。逆にその優れた同性が自らのライバルからはずれる可能性が高くなれば、脳は喜びを感じるのは当然のことです。
逆に、この研究が動物行動科学を一部実証したとも言えるかも知れません。

さてここで、唐突ですが、過失を裁く法や、不祥事を起こした人間を組織から切り捨てる風潮について考えてみます。

動物的本能に基づく行為は法を作って制限しなければ、人間社会は維持できなくなります。最も直截的な例ではありますが、強姦にはかなり重い罰が科されることになっています。
過失を為した人間を罰するべきかどうか。私は民事解決のみで良いのではないかと考えて来ていますが、日本においては運過致死傷罪の設定など、むしろ厳罰化に傾いています。もしかすると自分より優れた特徴を持った個体を、過失という理由付けによって有罪に落とす。過失を奇貨として自らのライバルとなったかも知れない存在が下に落ちることを喜びと感じているのではないかと思ってしまいます。

さらにもっとはっきりしていると思われるのが、私がかねてから疑問を抱いている多重処罰です。繰り返し取り上げて来た例ですが、酒気帯び運転に対し、刑事罰・行政処分が下されているのに、追い打ちをかけるように、本来関係ない職場で懲戒処分などが行われます。これも酒気帯びという不祥事を奇貨に、ライバルを下に蹴落とすことに喜びを感じているのではないかと思います。

他国における過失への罰を把握していませんが、もし日本が特に過失に対する罪を重くしているとすれば、日本人は前部帯状回や線条体が他国民より発達しているのかも知れない、と想像してしまいます。
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がんの告知 [診療]

毎日新聞 <死生観>がん患者「死後の世界」信じる割合低く 東大調査

東大病院.jpg がん患者は一般の人に比べて、死後の世界や生まれ変わりなどを信じない傾向が強いことが、東京大の大規模調査で明らかになった。また「望ましい死」を迎えるために必要なこととして、がん患者が健康時と変わらない生活を望んだのに対し、医師や看護師がそれを期待する割合は低く、認識の差も浮き彫りになった。

 調査は、がん患者の死生観を知るため東京大の研究チームが昨年1月から1年間かけて実施。東大病院放射線科に受診歴がある患者312人と同病院の医師106人、看護師366人、無作為抽出した一般の東京都民353人の計1137人が協力した。患者は75%が治療済みで、治療中の人は20%だった。

 「死後の世界がある」と考える人の割合は一般人の34.6%に対しがん患者は27.9%、「生まれ変わりがある」は一般人29.7%、患者20.9%で、患者の割合が目立って低かった。がんが転移し治療が難しい患者ほど割合は低く、現実的な死生観を持っていた。

 生きる目的や使命感を持つ割合は患者の方が一般人より高く、「自分の死をよく考える」という人も患者に多かった。

ここまで来たあの世の科学.jpg 「望ましい死」に関しては、患者の多くが健康な時と同様の生活を理想とし、「(死ぬまで)身の回りのことが自分でできる」(93%)「意識がはっきりしている」(98%)「物が食べられる」(95%)--などを望んだ。一方、医療関係者はこれらについての期待がそれぞれ30~40ポイント低かった。

 調査をした中川恵一・東京大准教授(放射線科)は「がん患者は死と正面から向き合っているようだ。望ましい死に対する認識の差は、医師らが終末期の現実を知っているのに対し、患者は死の経験がないため生じるのだろう。生きている時間を大切に過ごしたいという患者の思いに応える医療が必要だ」と話す。【永山悦子】


かなり重いテーマです。がんの宣告は、不治である場合は死の宣告に等しく、そうでない場合も、今まで考えていなかった死が現実のものとして自分のすぐ隣に来ることであり、ニュース記事のように、宣告された患者さんの立場としては、当然死と真正面から向かい合うことを余儀なくされる訳です。

がんの宣告以外では、特殊なケースではありますが、犯罪の結果死刑判決を受けた被告人も同様と思います。またもっと特殊ですが、実弾の入った銃を向けられた人間は、瞬間的ではありますが、死が自分のすぐ前に現れます。

六地蔵.jpg以前にがんの宣告についても考えてみたことがありました。告知をしないことによって訴えられるケースが出て来て、医師側では患者さん自身にがん告知をしないでおく、という選択枝は殆ど消えてしまいました。確かに告知の後、一番精神的に強いと思われた僧侶が自殺してしまったケースもあります。また宣告された患者さんの、死に対する受け止め方については、否定から受容に到るまでの、多くのプロセスは教科書にも紹介されています。

また引用しませんでしたが、拘置所で被疑者が自殺を遂げてしまった事件も繰り返し報道されています。これは必ずしも死刑判決後の死刑囚とは限りませんが、自らの生命に外部からリミットを設けられてしまう衝撃の強さを物語るものと言えると思います。

遠藤周作は、全ての罪深く人間を許すマリア像を中心にキリスト教を捉え、文学に著して来ましたが、晩年の小説「深い河」では、ガンジス川を訪れ、輪廻思想をもつヒンズー教的なものに惹かれていた様子が見られます。

死をゆっくり考えることのできる多くの人生では輪廻転生を信じたり、天国・地獄の存在を考えたりする余裕があります。突然目の前に死を突きつけられた人生では、死を現実的に捉えるしかないのだろうかと考えてしまいます。

今一度がん告知についても考えても良いと思います。また死刑の残虐さは、結局人が人を殺すことであると同時に、死刑囚の目の前に死を突きつける残酷さでもあろうと考えます。
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認知症発症受刑者 [診療]

河北新報 塀の中で認知症急増 福島刑務所、職員に介護講座

福島刑務所養成講座.jpg 福島市の福島刑務所で11月下旬、認知症サポーター養成講座が開かれ、職員約150人が受講した。厚生労働省が進める地域の認知症サポーター養成事業の一環で、刑務所側が福島市に開講を申し込んだ。福地美恵子所長は「認知症の受刑者をどう扱っていいのか分からない職員が多い。効果的な処遇を進めるためには知識を深めることが必要だと考えた」と説明する。

 福島刑務所と、隣接する女性収容施設の福島刑務支所には現在、認知症患者がそれぞれ1人いる。就寝時間なのに帽子をかぶって作業に出ようとして、刑務官が対応に追われることも。徘徊(はいかい)したり夜間に大声を上げたり、発症の恐れがある受刑者も何人かいるという。

 認知症を発症しなくても入浴や食事時の介添え、病院移送時の付き添いなど、高齢者への対応が刑務官の負担を増大させている。体力が落ちて集団行動に付いていけず、工場での作業から自室でできる軽作業に切り替える例も増えた。

 福島県立医大で「もの忘れ外来」を受け持つ小林直人助教は「言語的交流が少なく、生活の楽しみなど脳への刺激がない刑務所は症状が進みやすい環境の一つ。環境次第では発症しても穏やかに過ごせる人はいるが、刑務所内ではそれも望めない」と指摘する。

 法務省によると、1998年に525人だった70歳以上の受刑者は2007年、2156人と4倍以上になった。今後も高齢化は進み、認知症の受刑者が増えると推測されている。

 就業能力を高め、社会復帰を支援するという従来の刑務所モデルは高齢化で見直しを迫られている。厚労省と法務省は来年度、各地に地域生活定着支援センター(仮称)を設けることを決め、予算要求している。センターは出所した高齢者が速やかに福祉支援を受けられるよう、福祉施設との調整機能などを担う。


福島刑務所.jpg「地域生活定着支援センター(仮称)を設ける」とあります。果たしてきちんと機能してくれるでしょうか。

そもそも記事にもあるように、刑務所内で発生した認知症の予後はかなり悲観的なものと考えられます。
果たして認知症を発症した受刑者をそのまま収容し続けることに意味があるのでしょうか。上記支援センターはどうやらあくまでも出所した認知症受刑者を対象にすると言うことのようです。

発症受刑者は、医師の診断を得れば出所させ、福祉施設に移すのが適切ではないでしょうか。刑務所の意義が記事にもあるように、社会復帰支援も含むのであれば、認知症進行をそのままにして、刑期満了まで留め置くことに何の意味もないと思います。
仮に無期懲役の入所者であろうとも、福祉施設に移すことが望まれると思います。既に正常な思考が困難になってしまって来た認知症患者は、それまでに十分な刑を受けたとも考えられ、また薬物治療を含むケアを受ける権利を奪われるべきではないと思います。

私は絶対反対の立場ですが、刑が被害者の応報(仇討ち)であると考える立場の人にしても、認知症を発症した受刑者をそれ以上憎み続けるでしょうか。もうその元加害者を許す気持ちにはなれないでしょうか。

柔軟な対応を期待したいと思います。
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こわい毒キノコと医師攻撃 [診療]

毎日新聞 久慈病院訴訟:毒キノコ中毒死 「医師に過失なし」 遺族の請求棄却--判決 /岩手

岩手県立久慈病院.jpg 05年10月に毒キノコを食べて中毒死した洋野町の女性(当時67歳)の夫(72)ら遺族4人が「医師が適切な治療を怠ったのが死亡原因」として、県立久慈病院を管理する県に慰謝料など約4630万円の賠償を求めた訴訟の判決で、盛岡地裁は28日、遺族の請求を棄却した。田中寿生裁判長は「原告の主張に理由はなく、医師の診断や治療に過失はない」とした。  判決によると、女性は採取したドクツルタケをツルタケと思って食事。その後嘔吐(おうと)などをしたため同病院で受診したが、容体が悪化して転院先の病院で死亡した。田中裁判長は、医師は初診で食あたりと診断したが、カルテにドクツルタケの摂取を疑う記述をしており、措置に不自然な点はない▽ドクツルタケの写真を見せて否定されたことなどから、確実に毒キノコを食べたと認識できず、それを前提に過失があるとはいえない--などとし、医師らに過失はないと判断した。【山中章子】


盛岡地裁.jpg色々な意味で怖い事件です。
まず毒キノコ。医学部で毒キノコについて詳しく教わっているとは限りません。おそらく卒後勤務した病院で、その地域によって、こうした中毒患者を診ながら指導医から聞いて学んで行くものだと思われます。少なくとも私はこうした毒キノコについて個別の性質や治療法などを見ていません。

ドクツルタケについて。有毒成分であるアマニチンは細胞毒で、特に肝臓・腎臓を強力に傷害するとされているようです。一本新鮮なドクツルタケを食べただけで致死量に達するとされます。
治療は催吐・胃洗浄、活性炭投与、胆汁吸引除去、強制利尿、そして全身管理とあります。

仮にドクツルタケを食べたと考えて最大限の治療をしたところで救命できたとは限りません。
遺族が家族を亡くした悲しみはわかりますが、なぜ医師を訴えようなどと考えるのでしょうか。誤って毒キノコを食してしまったことが死因であり、診療を行った医師を責めてどうしようというのでしょう。

ドクツルタケ.jpgツルタケ.jpgそしてこわいのが判決理由にもある、医師側の対応です。もしドクツルタケを食べたことを疑う記載をカルテにしていなかったら‥。そして患者本人がそれを否定していなかったら‥。いずれの場合でも医師は有責とされ、患者を救命できなかった責任を問われてしまうのでしょうか。

久慈地域だけなのか、それとも一般論として、毒キノコ中毒を常に疑って患者に問診しないと医師は有責だとしたら大変です。アマニタトキシン群と言われる、タマゴテングタケ、ドクツルタケ、シロタマゴテングタケなどの写真を常に診察机の引き出しに入れておいて、どれか食べやしなかったかね、と問診しないといけないということになってしまうでしょうか。

患者がもし食べたかも知れない、と話したら、早速ICUに収容し、上記のような治療を開始しなければならないことになります。受診した病院がそれだけの設備のあるところであればまだしも、もし初診医が街のクリニックだったりしたら、搬送でまた困難を極める事態も予想されます。

食用キノコ・毒キノコを自信を持って鑑別できる人以外は、食べるべきではありません。そして不幸な事態になったからと言って医療者に責任を押しつけるのは勘弁して頂きたいと思います。

ちなみに写真左がツルタケ、右がドクツルタケだそうです。
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SASと自動車事故の刑事責任 [診療]

asahi.com 危険運転致死罪の被告に無罪判決 「無呼吸症の可能性」

SAS.gif 大型トレーラーで交差点の赤信号を無視し、自転車で横断中の男性(当時46)をはねて死亡させたとして、危険運転致死罪に問われた名古屋市中川区高畑1丁目、会社員荒浪裕之被告(45)に対し、名古屋地裁豊橋支部の伊東一広裁判長は5日、無罪(求刑懲役8年)を言い渡した。

 伊東裁判長は「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の影響で眠りに落ちた可能性が否定できない」と述べ、故意に赤信号を無視したとまでは言い切れず、危険運転致死罪を証明できないとした。

 荒浪被告は3月5日午前7時過ぎ、愛知県豊橋市内の国道1号で大型トレーラーを運転中、赤信号を無視して交差点に進入し、自転車で横断していた男性をはねて死亡させたとして起訴されていた。

 判決で伊東裁判長は、赤信号を確認してから交差点までの約100メートルにわたって加速も減速もしなかった行動を指して「信号無視する者の行動としては不自然」と指摘。SASの影響の可能性を否定できないとした。荒浪被告は07年7月の検査でSASが疑われ、今年2月に受診した再検査の結果、SASと診断されていた。

 名古屋地検豊橋支部は「意外な判決だ。(控訴については)判決内容を詳細に検討し、適切に対応したい」と話した。


名古屋地裁豊橋支部.jpgいったいどこが意外な判決なのでしょうか。ドライバーにSASという疾患が認められた。過失で事故を起こしたのではなく、病気で引き起こされてしまったものです。

もちろん被害にあった自転車の男性にしても何の手落ちもない訳で、相応の民事解決を図るべきだし、既にそれは終了しているのかも知れません。

検察はいくら仕事とは言え、どうして事故の当事者を犯罪者に仕立てて刑務所に送り込むことにそこまで必死になるのでしょうか。このトレーラーのドライバーが受けるべきなのは、刑罰ではなく、SASの治療です。放置すれば循環器疾患等で死亡率が上がり、寿命を高確率で縮めます。持続的陽圧呼吸や手術、その他の治療で、健康的な睡眠と日中の健全な生活を取り戻させる必要があります。

これを無理やり刑務所に送り込み、剰えこのドライバーから治療の機会を奪い、早死にさせることに血眼になるのはやめませんか。

そうでなくてもこのドライバーを有罪に持ち込むことが誰を幸福にするのかもう一度考えて欲しいと思います。
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CT画像に殺意は写るか [診療]

毎日新聞 <裁判員制度>傷の状況、CT画像で示す…殺人未遂事件公判

腹部CT.jpg 同居男性を包丁で刺して大けがをさせたとして、殺人未遂罪に問われた女の初公判が16日、東京地裁であり、検察側は傷の状況を撮影したコンピューター断層撮影(CT)による立体画像をスクリーンで示した。来年5月に始まる裁判員制度を見据え、被告の殺意を効果的に立証するのが狙い。

 女は東京都北区、風俗店従業員、中村あゆみ被告(23)。起訴状によると、今年6月、マンション自室で同居の男性(19)を刺し、全治約70日間のけがをさせた。中村被告はこの日の公判で殺意を否認した。

 検察側は「うつぶせで寝ていた男性を突然刺しており、殺意はあった」と指摘。さらに傷の状況をCTで撮影した立体画像をプロジェクターで映し、約13.6センチと深い傷で、腎臓に達していることを示した。

 東京地検によると、殺人未遂事件は殺人事件と異なり、被害者の解剖が行えないため、これまで傷の深さを正確に測ることができなかった。同地検幹部は「CTの活用は殺意の立証に効果的ととらえており、今後も活用していく」としている。【伊藤一郎】


東京地裁.JPG個人的にはまた大きな疑問符が灯っています。
そもそも被告人(加害者)しかわからない殺意の有無を、少しでも量刑を重くしようとする検察と、少しでも軽くしようとする弁護側で争うのが法廷の場ということになります。
真実は被告人の心の中にのみあります。場合によっては咄嗟の犯行で、本人自身も被害者を殺したかったのか、傷つけても殺す意志まではなかったのか、振り返ってもわからない、ということもあるかも知れません。

こうした殺意の存否を決めるのに、先端医療機器(でもないですが)のCTが大活躍、というナゾの記事です。包丁の刺入長が13.6cmだと殺人未遂で、もし9.8cmだったら傷害ということになるのでしょうか。CTを持ち出したところで、わかることは包丁の刺入長だけです。

包丁の先端が腎臓に届いたかどうか、犯行に及んでいる加害者が解剖学に精通した医師でもあれば、どのように刺すと致死的な外傷を与えられるかなどと考えるかも知れません。一方医療関係者でもない限り、包丁の先がどんな臓器を傷つけるかなど、想像もつかないことです。結果的にCT像で、それが腎臓に達して、例えば腎摘出の憂き目にあった、などということだと、それが殺害の意志の証明になるというのならおかしな話です。

何やら裁判員の前にこうした画像を示して、少しでも検察側有利に裁判を運ぼうというのなら、やめて頂きたいと思います。そこにいる裁判員の思考回路が多少簡素であると、そうかそうか、殺人未遂だ、厳罰だ、などということになってしまいそうです。そしてそれを検察が期待しているとしたら、被告人に不利に過ぎるし、考えようによっては裁判員に大変失礼な話です。

しかしいずれにしても、そもそも本当は誰にもわからない殺意の有無などを決めるのに、裁判員を入れたところで仕方のないことと思います。単に検察が有罪や厳罰を勝ち取るための手段と考えているとしか思えません。

私は裁判員制度、そして被害者参加制度そのものに反対です。
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司法が精神医学を書き換えた? [診療]

読売新聞 同級生のいじめで統合失調症、2審も因果関係認める…広島

ドパミン統合失調症.gif 広島市立中学に通っていた当時、同級生4人からのいじめが原因で不登校となり、統合失調症になったとして、元生徒の男性(20)と両親が同級生と広島県、市などに慰謝料など計約2600万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が15日、広島高裁であった。

 礒尾正裁判長は判決で、いじめと統合失調症の因果関係を認めた。損害賠償の金額については、計830万円の損害賠償を認めた1審・広島地裁判決を変更し、被告側に対して計約470万円の支払いを命じた。


いじめがもとで不登校となり、それに伴って発生した不利益に対する損賠を認めた判決の考え方は当然と考えます。損賠額も妥当なものだろうと思います。
不登校になってしまった元生徒に対する償いがなされるべきであるという点においてはこの判決に何の異論もありません。

草間彌生.jpg大いなる異論は判決内容の医学的考察?です。
私は精神医学に明るくありませんが、少なくとも統合失調症の原因は未だ確定されず、ドーパミン過剰説や、発達障害仮説、ウィルス説などが挙げられていますが、いずれも確定していません。二重拘束説など心因説もありましたが、これはむしろ否定的とされるようです。

このように未だに科学的に解明されていない統合失調症に対し、いきなり判決がいじめとの因果関係を認めてしまいました。大胆な判決に驚愕してしまいました。
判例として法曹界の記録には残るでしょうけれど、まさか医学雑誌や教科書に載るとは思えません。
「いじめが原因で統合失調症が発症することがある」(正?誤?) 医師国家試験に出題しないで下さい。

この事件の判決については、いずれにしても加害者が被害者に当然の損賠支払を行うべきであり、あまり問題になりませんが、医療事故などで、裁判長はエビデンスのない医学判断をしないで欲しいと心配になります。
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院内暴力はおやめ下さい [診療]

asahi.com 「院内暴力」には毅然と /広島

院内暴力対策.jpg 医師や看護師に対し、患者やその家族が暴言や暴力をふるう「院内暴力」への対応の仕方を学ぶ講習会が8日夜、福山市御幸町上岩成の中国中央病院であった。院内の医師や看護師、事務職員ら約120人が福山北署の生活安全課長らの話に聴き入り、暴力を受けた際の護身術を学んだ。

 講習会では同課の谷本剛課長が、患者らのどういった行為が犯罪になるのかについて具体例を挙げて説明。暴言をはかれた時には常に敬語で話して相手に言質を取られないようにする▽問題のある患者を別の部屋に案内する間に警察を呼ぶ▽逮捕できなくても酔っ払いのように警察で一時的に保護してもらう――などの対応策も紹介し、「ためらわずに警察に相談してほしい。事なかれ主義は相手の思うつぼで、言いなりにならず、きぜんとした態度で臨んでほしい」と話した。

 続いて、患者らに胸ぐらをつかまれそうになった時に相手の指をねじ曲げて体勢を崩したり、後ろから抱きつかれた際はいったんかがみ込んで相手の腕を払いのけたりする護身術を警察官らが実演した。

 院内の医療安全管理室副室長を務める藤井いづみ・副看護部長(49)は「これまで現場では相手が患者さんということもあり、なかなか思い切れず、我慢することで対応してきた。困ったら相談できることが分かり、安心しました」と話していた。

 全日本病院協会が4月に発表した調査結果では、身体や精神面での「院内暴力」は5割以上の病院で発生し、うち警察に届けたのはわずかに6%程度にとどまっている。県内でも今年1月、安芸高田市内で、通院する病院の看護師を更迭するよう院長を脅迫し、人事異動を発令させたとして、患者の男が強要の疑いで逮捕されている。(広津興一)


中国中央病院.jpg航空機内での狼藉に関しては、飛行機の安全運行という観点からと思われますが、航空会社側に多くの権利を持たせるようになって来ました。

学校でのモンスター親対策も少しずつ模索され、教育委で弁護士を顧問に迎え入れるようになったというケースもあったようです。

確かに病院内での暴力対策は遅れて来ていたようです。幸いにして今までそうしたケースがあまりなかったからとは思いますが、昨今は医療崩壊と並行するように増えてきたと聞きます。モンスター患者/家族に手を焼くケースも増え、暴力にまで到らなくても、傍若無人な態度を取る患者さんが増えて来ているのも事実です。

医療は医療者と患者間の準委任契約とされ、医師は患者に対して応召義務を負う代わりに、患者は必要があればインフォームド・コンセントを経て、医師の治療方針に従う義務があると考えられます。もちろん治療方針に疑問があれば、納得できるまで医師に聞くべきで、納得が得られなければ医師側も検査も処方も出来ません。ひとたび治療方針に理解をしたならば、それに従って頂きたいと思います。

王様のレストラン.jpgしかし昨今は薬を飲みたくない、逆に忙しいから来られない、薬を長期に寄こせ、などと言った要望がよく聞かれます。説得にあい努めても虚しい結果に終わることもたびたびあります。

そこまでは仕方ないとしても、医療者は自分のしもべであるかと勘違いしての狼藉はやめて頂きたいものです。

理想的なレストランは「客は王様のように振る舞う」=「王様のレストラン」であるかも知れませんが、医療機関は「王様の病院/クリニック」にはなり得ません。患者さんと医療者は対等です。患者さんのいいなり、ご希望通り、では正しい治療ができません。そこを理解して頂きたいものです。

まして護身術を駆使したり、警察を呼ぶような羽目にならないことを願うばかりです。
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医療訴訟・アメリカ式損賠請求? [診療]

東京新聞 「診断ミスで死亡」自治医大を提訴 さいたま市の遺族

自治医大さいたま医療センター.jpg 自治医科大学付属さいたま医療センターで治療を受けたさいたま市の六十代の男性が悪性リンパ腫関連血球貪食症候群で死亡したのは医師の診断ミスなどが原因として、男性の妻らが同大に慰謝料など約四千二百万円の損害賠償を求め、さいたま地裁に提訴していたことが二日、分かった。

 訴状によると、男性は昨年六月二十八日、白血球数などが異常な数値を示した別の病院での検査結果を持って同センターで受診、一過性の感染症と診断された。再検査で同症候群と診断、七月六日に入院、三日後死亡した。

 原告側は「医師は早期に同症候群を疑うことや、適切な検査や治療を怠った」としている。同センターは「コメントは差し控える」としている。


さいたま地裁3.jpg繰り返し書いてきたように、診断/治療行為がベストコースでないと後から考えると、それは医療者の過失だ、賠償しろ、という構図が医療裁判には見えます。そして民事だけでなく、それを以て業過致死傷罪を適用しようと検察が動くこともあります。

機械工業と対極にある、不確定要素の集大成のような人体を扱う医療には全くそぐわない考え方です。
白血球数が低下したからと言って、全ての患者に血球貪食症候群を疑えというのはあまりに非現実的です。またこの患者さんには、同大初診時から1週間後には診断に到っています。確かに入院後の経過は不幸なものになりましたが、診断が数日早まったからと言って救命できた「高度の蓋然性」があるとでも言うのでしょうか。むしろ結果は変わりなかったのではないかと想像します。

もし仮に、診断が数日早まり、治療開始がその分早まったら、原疾患の悪性リンパ腫まできれいに治癒して、退院後天寿を全う出来たと考えているのでしょうか。
九大内科・故柳原敏幸名誉教授の論文によると、造血系腫瘍に血球貪食症候群を併発した場合の予後は7ヵ月とあります。百歩譲っても、7ヵ月程度の延命が望めた可能性もなしとはしない、という程度になるのではないでしょうか。

4200万円もの損賠請求は、考えたくはありませんが、モンスター遺族によるものか、そそのかした弁護士がいるのか、と思ってしまいます。米国の訴訟を見習ったのでしょうか。

誤った判決が出ないことを祈るばかりです。
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どうせ最終責任は医師にある [診療]

東京新聞 吸入ステロイド薬 ぜんそくに効果

清水宏保.jpg ぜんそくは気道が狭くなり、息苦しくなる慢性の病気。ひどいせきなどの発作が突然出て社会生活に支障をきたす場合もある。しかし最近、発作を抑える吸入ステロイド薬が徐々に普及、発作の不安から解放される人が多くなっている。この薬でぜんそくを制御し、長野冬季五輪男子スピードスケート五百メートルで金メダルを獲得した清水宏保選手(34)が七月に名古屋市で講演した際に話を聞き、薬の普及の現状を考えた。 (佐橋大)

 清水選手は幼稚園のころ、ぜんそくと診断された。発作でたびたび入院。せきで眠れない夜が続き、スケートもできないほどに。しかし学生時代、医師の紹介で吸入ステロイド薬と出会った。症状が出にくくなり、オリンピックの金メダリストになった。

アドエア.jpg 朝晩に粉状の薬を吸い込むだけ。「一年前から吸入ステロイド薬に長時間気管支を広げる薬が配合された薬を使っている。今の薬を使ってからは、発作や息苦しさといった日常の症状もほとんどない」と話す。

 以前は、発作が起きた時点で気道を広げ、症状を鎮める薬がぜんそく治療の中心だった。しかし最近では、ぜんそく患者には慢性的な気道の炎症があり、炎症を抑えれば発作が出にくくなることが解明された。炎症の抑制に効果のある吸入ステロイド薬が治療の中心になっている。

 日本アレルギー学会が作った診療ガイドラインでは、呼吸がヒューヒュー、ゼーゼーするなどの症状が週一回以上出る人の基本治療薬に、吸入ステロイド薬が位置付けられている。

 しかし、この治療法は十分に普及していない。呼吸器アレルギーの専門医グループが二〇〇五年に全国のぜんそく患者に電話でした調査では、吸入ステロイド薬を使っていたのは大人で18%、子どもでは8%にすぎなかった。普及を妨げている理由について、多くの専門家は「全身性の副作用はほとんどないのに、誤解がある」と指摘する。

榊原博樹.jpg 一方、藤田保健衛生大の榊原博樹教授(呼吸器内科・アレルギー科)は「適切な薬物治療に加え、ダニ、ほこりなど、ぜんそくを引き起こす要因を見つけて避けることが大切」とも指摘。薬で消えなかった発作が、原因を見つけて対応した結果、出なくなったケースもある。

 「ぜんそくはコントロールできる病気。『ぜんそくだから』と、やりたいことをあきらめないで」。清水選手はそう呼び掛ける。


フルタイド.jpgこの薬剤のメーカーはよく医療機関を訪問し、この製品を紹介しているので、多くの医師はこのニュース記事を読んだだけで製品名がすぐ浮かぶと思います。

ニュース記事通り、これらの薬剤のおかげで喘息重責発作も減り、喘息死や発作による入院がかなり減っているものと思われます。

しかし安易にこうした記事を、処方する医師側でなく一般読者向けに書いて欲しくないと思います。
このニュース記事にすっぽり抜け落ちているのが副作用です。「全身性の副作用はほとんどない‥」と簡単に触れられていますが、やはり抵抗力が落ちている人が気管支などに感染がある場合、それを重篤にする危険もあります。
また、一部の地域で実施されている喉頭がん検診で、ステロイド吸入薬を使っている人の喉頭にカビが生えているのが発見されることもあります。

もちろんメーカーから医師むけの能書(薬の説明書)には事細かくこうした副作用が記載されています。メーカーから医師への情報提供にはぬかりはない、という訳です。一方患者さんは不測の副作用が発生した場合、インフォームド・コンセントがなされていない、と医師を訴えることができます。
要するに何か問題が発生した時、当然患者さんは悪くない、メーカーは考え得る副作用は医師に伝達してある、ということになります。悪いのはちゃんと説明をしなかった医師だ、そういうことになります。

これらのことを考えて医師一人ひとりが、この薬剤(他の薬剤もですが)の処方を考えます。これを医師の裁量範囲と言います。
これを無視して一方的にこの薬剤について、処方しない方がおかしい、と言わんばかりの記事を一般紙面に載せるのには疑問を持たざるを得ません。まして、もしこの薬剤のメーカーが新聞社に持ちかけたものだったりしたら、その商業主義優先の姿勢は許せません。

一面的な見方のニュース記事を書かないで頂きたいと思います。
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